鎌田慧 口誅筆伐(5)シジミ貝たちの見る夢 2018年春
鎌田 慧(ルポライター)
米軍F16戦闘機の燃料タンク投棄事件
米軍三沢基地(青森県)所属のF16戦闘機が、すぐそばの小川原湖に燃料タンクを2個投棄した事件は、大きな波紋をひろげている。
米軍機事故といえば「沖縄」、と連想するほどに、沖縄での事故が連続していたが、こんどは本州北端の米軍三沢基地。2018年2月20日、米軍戦闘機F16は離陸直後、急上昇中、エンジン部分から出火、燃料タンクを捨てて辛うじて基地に引き返した。
その付近には、シジミ漁の漁船が10隻ほど操業していた。漁船の100㍍先で、15㍍の水柱が立ち上がった。
「人や船に被害がなかったが、現場の油がひどい。早急になんとかしてほしい。寒シジミ漁のいいところだったのに、冗談じゃない。もうちょっとずれていれば、仲間の船に落ちていたかもしれない」
操業していて、水柱に驚いて漁協に第一報を入れた漁師が語った。ところが、基地周辺町内連合会長のコメントは、
「今のF15は導入から20年がたち、耐用年数がきているのでは。古いのであれば新型機へ変更し、兵士の充分な訓練をおこなってほしい」(東奥日報、2月21日)というものだった。
「世界の憲兵」とも言われる米軍も制度疲労。憐れみの対象のようだ。それでも「基地反対」とはいわない、米軍基地依存の体質である。
小川原湖は、シジミ漁の真っ盛りだった。折角のかき入れ時で打撃が大きく、漁協組合員が採った油まみれのシジミ貝385キロが、焼却処分となった。時価50万円。被害総額はまだ判明していない。が、対米従属、差別的な「日米地位協定」だから、米側が75%、被害者側の日本が25%の負担する。
タンクの破片やオイルの撤去作業は海上自衛隊が実施した。米海軍のダイバーは、2週間たっても姿を見せていない。2004年8月、沖縄県宜野湾市の沖縄国際大学での墜落事故では、構内に学長をも入れない厳戒体制で機体を回収、16年12月の名護市海岸に墜落したオスプレイも、やはり日本の警察も消防も近づけない厳戒態勢のなかで、海兵隊が機体をそっくり回収して去った。
外部装置の燃料タンクには秘密部分がないためか、回収作業は自衛隊に下請けさせる。占領時代以来の日米地位協定の現実である。
ステルス戦闘機の大量買い
三沢米軍基地には、F16戦闘機が44機、ほかにも哨戒機や輸送機が配備され、北朝鮮、中国をにらんだ離着陸訓練が、さかんにおこなわれている。このほかに航空自衛隊のF2戦闘機が配備され、これもさかんに中国機へのスクランブル(緊急発進)をかけている。
次期主力戦闘機である、最新鋭ステルスF35A、最初の1機が米ロッキード・マーチン社から到着。2月下旬、小野寺五典防衛大臣が出席して、三沢基地で配備の記念式典がおこなわれた。1機140億円だが、最終年度で6機総額940億円と、年ごとに価格が上昇する。それを最終的には42機、2個飛行隊体制が予定されている。
防衛省内には、航空自衛隊の主力戦闘機F15(200機)の代わりに、F35Aを買い増しする案がある。それよりもさらに高価な、垂直離着陸の可能なF35Bを購入、攻撃型空母に大改造予定の護衛艦「いずも」に、搭載させる計画である。
空母への変造所有は、歴代内閣が厳守してきた、「専守防衛」の歯止めを突破する戦略で、さらにF35Aに搭載する、長距離巡航ミサイルの経費を、18年度予算で22億円計上している。つまりは集団的自衛権による敵基地攻撃経費もすでに予算計上されている。
ステルス戦闘機の大量買いは、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」一基800億円を2基、などとあわせて、トランプ大統領の「バイ・アメリカン」(米国製品を買おう)の強要に迎合した、安倍軍事オタクの破滅的浪費である。
三沢基地は核出撃基地
三沢基地所属の戦闘機燃料タンク投棄事件は、沖縄の危険極まりない事故続発、たとえば、16年12月の名護市辺野古沖でのオスプレイ墜落事故、17年12月の宜野湾市小学校への輸送ヘリの窓枠落下事件、18年1月のうるま市、読谷村、渡名喜島へのヘリの連続不時着事件、2月の伊計島へのオスプレイ部品漂着などのように、これまで続出していた三沢基地でのいくつかの燃料タンク投棄事件を、あらためて想い起こさせることになった。
沖縄での米軍基地の密集はあまりにも異常だ。しかし、三沢の基地も危険な軍事施設であることには変わりはない。
沖縄の嘉手納基地が核出撃基地であり、伊江島が核爆弾投下訓練場だったことはもはや秘密ではない。と同じように、三沢基地もまた核出撃基地であり、隣接する天ヶ森射爆場が、戦術核投下訓練の場だった(『ルポ下北核半島』鎌田、斉藤光政共著、岩波書店、2011年)。
天ヶ森射爆場は、本日只今も爆音激しく、米軍F16攻撃機の急降下、標的を攻撃し急上昇する訓練がおこなわれている。遠く離れた畑にたっていても金属製の音が喧しく、会話などできないほどである。
そこから車で10分ほど北上すると、六ヶ所村「核燃料サイクル基地」である。濃縮ウラン工場、使用済み核燃料再処理工場があり、各原発から4480㌧の使用済み核燃料や海外で処理されたプルトニウムが、運びこまれてある。
だから、あえて再処理して、プルトニウム型核爆弾に加工しなくても、ミサイル攻撃されれば、大惨事になる。すこし離れた天ヶ森射爆場にむけて旋回し、急降下しているF16攻撃機が、核燃サイクルの施設に墜落しただけでも、福島原発事故よりも悲惨な結果になる。
国家予算の食いつぶし
六ヶ所村の「核燃料サイクル」の現状については、前号の「再処理工場廃棄宣言」ですでに紹介した。着工から25年、それでもまだ未完成、試運転さえ一回も成功していない、詐欺的工場。操業開始時期を毎年、「来年だ」、「来年だ」と言っては頭を下げて、すでに24回。ただひたすら国家予算を食いつぶしているだけだ。
いま発表している稼働予定は2021年。しかし、これも保証はない。それでも靑森県に入る核燃料税は、本年度で200億円。一円の収入がなくても、税金を支払ってくれるのは、親方日の丸だからだ。これまで、2800億円(運転停止中の東通原発分も一部含む)の税金が、青森県に入った。打ち出の小鼓である。かつて廃船になった原子力船「むつ」は「宝船」といわれた。存在させるためにカネをバラ撒いた。「もんじゅ」もまた、無駄な投資だった。
安倍政権が危険極まりない穀潰し、核燃料再処理工場に拘っているのは核武装の物質的基盤。その「技術的ポテンシャル」を維持しておきたいからだとの見方もある。最終処分場の適地さえない、この国のどこで核実験をするつもりなのか。小川原湖のシジミ貝たちが見る夢は不吉だ。
(現代の理論 2018春号)
*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より

