POLITICAL ECONOMY 第314号 ステーブルコインの実用化は急ピッチ

経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

要点

1、ステーブルコインは低コスト・高速な決済インフラとして普及し始めている

2、AIとの連携が新たな成長領域として注目されている

3、信頼性・規制・セキュリティ面の課題が残る 

 世界の金融の最前線では、実用的なデジタル通貨「ステーブルコイン」が急速に普及し始めている。米国では決済インフラとして定着し、日本でも法整備を経て事業化が始まった。まだ海外送金などを行う企業が中心だが、近い将来、個人の買物もステーブルコインで支払う時代が到来するかもしれない。

 「ステーブル(Stable)」とは「安定した」という意味で、ステーブルコインは、その名の通り価値が安定するよう設計されたデジタル通貨である。米ドルや日本円などの法定通貨と価値を連動させ、米ドル建てなら「1コイン=1ドル」程度で推移する。ビットコインは発行上限が2100万枚と決められ、希少性から投資対象となり価格変動幅が大きいのとは大きく異なる。

 ステーブルコインは、銀行のような管理者を置かず、取引の記録を多数のコンピューターで分散して管理する技術であるブロックチェーンを用いている。データの改ざんが極めて難しく、透明性の高い取引を実現できる。決済に時間がかからず手数料も銀行送金より低いため海外送金や企業間決済の効率化が期待されている。

短時間、低手数料で海外送金

 ブロックチェーンを利用するので決済や送金に力を発揮する。実際にステーブルコインでアメリカの友人に10万円を送るケースを考えてみよう。まずステーブルコインのウォレット(電子財布)にステーブルコインを入れる。相手も同じステーブルコインのウォレットを持っていれば、相手のウォレットアドレスを指定して送金するだけでよい。手数料は数十円から数百円程度、数秒から数分で海外の相手に届けることができる。

 現在主流の銀行間送金の場合、SWIFT(国際銀行間通信協会)ネットワークを使って送金するため、自行の手数料と為替手数料が引かれ(10万円の送金で5000円超)、しかも相手の口座に届くまでに1~3営業日かかる。ステーブルコインの優位性は明らかだ。

 ただ、国内での買物はまだ環境整備されていないのでほぼできない。しかし、ステーブルコインはクレジットカードの加盟店手数料(約2〜5%)に対し、1%未満〜数十円程度のネットワーク手数料に抑えられるため、店舗のメリットは大きい。また、クレジットカードのように「売り上げの15日後・翌月末振り込み」ではなく、決済と同時に店舗の口座・ウォレットに入金される。他方で買物する人のメリットは小さい。

 ステーブルコインの本家である米国では、米ドル建てステーブルコインの時価総額は約3000億ドル(約48兆円)に達している。暗号資産取引だけでなく、企業間決済や送金など実際のビジネスでも利用が広がっている。普及を後押ししたのが25年7月に成立したステーブルコイン関連法だ。金融機関や決済事業者の参入が相次ぎ、VisaやPayPalもステーブルコインを活用した決済サービスを展開している。

 日本でも2023年の資金決済法が改正されたことで、銀行、資金移動業者、信託会社による発行制度が整備された。25年10月にはJPYC社が国内初のステーブルコイン「JPYC」の発行を開始した。JPYC社によると発行7カ月後の26年5月末時点で累計発行額30億円超、口座数約1万9000件と規模を拡大している。3年間で発行残高10兆円を目指すという。

 SBIグループも26年6月に信託型ステーブルコインを発行した。このほか三菱UFJ銀行などメガバンク3行も26年度中の発行を目指している。今後、拡大することは間違いなく、矢野経済研究所は、国内市場が2030年度に約14.7兆円規模へ拡大すると予測している()。

AIが買い物、ステーブルコインで支払う

 AIとの連携である「AIエージェント」も注目されている。事前の人間の指示を受けて旅行予約や商品購入などを自律的に行う技術だ。AIが人間の承認を待たずに決済まで完了させる。たとえば「来週月曜日に広島に行く」というスケジュールをAIが認識して新幹線とホテルを手配、予約してくれるという。

 このAIエージェントによる決済は、ステーブルコインと相性が良いという。ブロックチェーン上のウォレットにステーブルコインを入れておけば、AIエージェントが直接保有・管理することが可能となるというのだ。

  この分野はまだ始まったばかりだが、米国やシンガポールなどでは、すでにAIエージェント向けの決済インフラとしてステーブルコインを活用するサービスが登場している。また、アンソロピックやオープンAIなど大手AI企業も、エージェントと決済の連携に強い関心を示しており、今後急速に実用化が進む可能性が高い。

 ステーブルコインには課題もある。まず信頼性の問題だ。法定通貨担保型であっても、「本当に担保が十分に積まれているのか」という透明性への疑念は根強い。大手ステーブルコインのTetherは、過去に準備金の構成について議論を呼んだことがある。

  また、政府が突然規制強化を行えばステーブルコインの利用が制限される。サイバーセキュリティのリスクも無視できない。ブロックチェーン上の取引は基本的に戻れないため、一度ハッキングされて送金されてしまうと取り戻すことは困難だ。

 しかし、デジタル通貨の流れは強まる一方だ。実用的なデジタル決済インフラになる可能性を秘めている。

*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より

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