野生生物保全の世界 3 タピオカと大豆ハンバーグから考える
西原智昭(国際野生生物保全協会 自然環境保全研究員)
昨今、巷では「タピオカ」という飲み物が流行っている。甘い飲み物の中に、ツルンとした食感のある直径1センチくらいの黒いツブツブがたくさん中に入っている。ストローで液体とともにその粒を口の中に流し込んで味合うのが人気らしい。販売されているタピオカ入りのカップは使い捨てプラ容器でありその粒を拾い吸い込むためのストローも通常よりもさらに太くて丈夫なプラスチックである点だけを考えてみても、タピオカに人気が出れば出るほど、それだけで環境負荷が上がるのをどれだけの人が気付いているであろうか。
そもそもタピオカとは何か。ブラジル原産のキャッサバである。キャッサバはその後東南アジアやアフリカにも渡り、熱帯地方の多くの地域の住民にとって主要な炭水化物の一つとなっている。キャッサバは土壌の貧困な土地でも下生えの管理さえすれば育ちやすい農作物であり、歴史的に急激に広まった。現在でもその栽培法は森林を伐採しそのあと火入れをして、キャッサバを植える。一度利用した土地はすでに痩せているので、さらなる植え付け・生産には隣地をまた伐採・火入れする。
こうした焼畑農法の継続は繰り返される森林消失と森林火災によって地球温暖化をさらに加速化しかねない。特に、アフリカのような人口爆発地域の食料安全を図るには、その急速な農地拡大を伴うからである。そうした中、危惧するのは、タピオカのような趣向食品が大々的に出回ったとき、コンゴ盆地やブラジルなどでの現地消費以上の過剰なキャッサバ需要が生じ、商業ベースのさらなる農地拡大である。タピオカ常習者はそうした懸念があることを知る必要がある。

一方、地球温暖化を引き起こす最大要因の一つとして、森林伐採による過剰な放牧場の開拓と牛そのものからでるゲップ由来の過度のメタンガス排出が取り沙汰されている。南米のアマゾンでは20世紀後半以来大々的に継続中である。こうした憂慮すべき事態に、牛肉を使わない「大豆ハンバーグ」が提唱されてきた。
大豆であれば栄養の点でも問題なく、また食材の調理法次第では食感も味も牛肉使用のハンバーグに優るとも劣らぬものが可能だという。もし大豆ハンバーグが今後広く普及すれば、地球温暖化削減にも大きく貢献できる可能性を秘めている。
しかしながら、大規模な大豆農園開発が、地球上の森林破壊の4大要因であることをどれだけの人が知っているであろうか?日本との関わりで言えば、かつて日本がODAの一貫としてアマゾンに大規模大豆農園を作った。大豆の安価な安定供給を目指すためである。結果的に、日本国内の多くの大豆農家が廃れていった。同様のプロジェクトを日本政府はいまアフリカのモザンビークで実施しようとしている。一見すると、ヘルシーで環境に優しいと見られる大豆が、実は地球規模で見たらそうではなさそうだ。大豆も、実は「エコ」ではないのかもしれない。
最近アマゾンの森林で大規模火災が起こった。原因は特定されていないが、地球環境変動に伴うアマゾン熱帯林の極度な乾燥化が起こり何らかの飛び火が大規模火災につながったと言われている。それは、大豆農園拡大のための火入れであったかもしれないし、主食のキャッサバのための焼畑のための火入れであったかもしれない。結果的に、熱帯林に覆われた先住民保護区が延焼の危機に見舞われたと聞く。
健康スタイルや食スタイルの変化から、従来より菜食主義が主張されてきた。ただ菜食主義者の中には、乳製品を認めるもの、卵を含めるもの、場合によっては魚も食べてよいなど、いろいろな型がある。魚を除く野生動物や家畜由来の肉を排するという食習慣である。最近はそんな中、一切の動物性食品を口にしないという「完全菜食主義者」と言われる「ビーガン」が出現してきている。
食の嗜好は基本的に自由である。しかし同時に、2019年夏号で述べたように、食文化の問題も忘れてはいけない。地球環境問題や人間の健康面を配慮して、それぞれの食習慣を検証しその改善を提唱するのは構わない。しかし、特定の集団の食習慣が第一と考え、それと異なる食習慣を持つ他の集団に強要するようなあり方は同意できない。いまのビーガンに見られる主張は教条主義に偏りつつあり、トップダウン式による押し付けのように感じるのは筆者だけであろうか。大豆農園や焼畑農業で森林破壊がさらに進行すれば地球温暖化がさらに加速しかねない観点も考慮しながら、総合的な視野での議論が必要であろう。
(現代の理論 2020冬号)

