AI革命で会社が変わり、雇用・仕事が変わる 労働組合は職場の声を聞き取れ

小林 良暢(グローバル産業雇用総合研究所所長)

【経済分析研究会報告】

 第4次産業革命という言葉は、2014年から一部のビジネス誌で取り上げられたが、それが広まったのは2015年1月に『日経ビジネス』が新春特集での大特集が組んでからである。同誌は、その実例としてドイツの“Industrie4.0”やアメリカのGEの“IoT” (Internet of Things) の取り組みを紹介した。2015年の正月には、大型書店に行っても“Industrie4.0”の本が生産技術や人事労務のコーナーの片隅に数冊置いてあるだけだったが、春になるとそれにとって代わり“IoT”関連本がずらりと並べてメーンコーナーの平積みに昇格した。その年の秋ごろから2016年になると、金融分野の技術革新である“Fintech” (financial technology)が主役になり、そして2017年にはAI(Aartificial intelligence)の出番で真打ち登場となった。
 ここでは、この一連のイノベーションの真打ちに敬意を表して「AI革命」という言葉を使うことにするが、それにしても最初はインダストリェ4・0から、次のIoT、さらにフィンティック、そしてAIと呼び方が4回も変わる技術革新の早さである。この四つの呼び名の寿命はわずか10カ月たらず、その短かい期間に技術基盤が深化させるという、脅威のイノベーションである。

AI元年の怪しい論調

 AI元年は2017年だが、論壇で取り上げられたのは、この年の7月~8月にかけてである。ここでは2本の時評と論考を取り上げる。
 まず朝日新聞の論壇時評(7月27日)で、小熊英二が「AIが絶対にできないこと」を論じた。でも、小熊氏がこの時評で取り上げている6本の論考うち、その大半はAIやロボットによって雇用が代替される割合は50%という、内外のシンクタンクの推計を前提にした論考で、いまAIが現場の労働と雇用にどのような影響を及ぼしつつあるか、触れているのは座談会の1本だけである。
 ところが、この覆面座談会「AIで、日本の労働、社会はどう変わるのか」が掲載されていのはる2016年12月の発行された『POSSE』第30号で、座談会が行われたのはさらに1カ月以上前であろう。小熊の時評は、なんと10カ月前のAIの話である。今起きているイノベーションのスピードは10カ月ごとに呼び名が変わるほどの超高速で、3カ月前となるともう昔の話である。これでAIの話題を論じるセンスは、現実感覚がずれていると言わざるをえない。
 いま1本の論考は、8月8日付日本経済新聞の経済教室に載った井上智洋の「AIはなにをもたらすか」だ。井上氏によると、2030年を展望すれば、AIが実社会に導入されるようになると、その多くの職業がなくなり、多くの労働者が失業して所得を得られなくなる社会になるという。その回避策には、「ベーシックインカム(基本所得、BI)」が必要となると主張する。
 小熊、井上の両氏は、 AIによって雇用が代替される割合は50%とか、多くの労働者が失業するとかということを、無前提に受け入れていることである。だか、この内外のシンクタンクによる推計そのものが怪しい!
 ちなみに内外のシンクタンクにAIの雇用に及ぼす推計結果の主なものを列挙すると、
 ①マッキンゼーの雇用試算「AIによる自動化可能な業務は、日本では55%で世界トップ」、
 ②野村・英オックスフォード大学共同予測「AIの導入で、仕事の49%が代替可能となる」
 ③三菱総研「日本は「AIで500万人の雇用創出するが、730万人が雇用を失うので、プラマイ240万人減」
 ④日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズ(FT)「人が携わる約2000種類の仕事(業務)のうち3割はロボットヘの置き換り、日本では5割強の仕事(業務)を自動化できる」
この手の話は35年前のマイクロエレクトロニクス(ME)革命の時にも言われたが、現実はそうはならなかったという事実を以って反証できる。MEとAIが違うというのであれは、その理論的根拠を示すべきた。井上氏は、特化型AIと汎用AIは違うというが、この概念があいまいである。
いま一つの怪しい話。労働需要の二極分化論の一橋大学・岡田羊祐氏は、「ソフトウエアのアルゴリズムを構築する高度な熟練労働への需要が増大する が、定型的な業務を担う非熟練労働の需要は低下する」という。
 アルゴリズムとは「一つの問題に対して、解決するための方法や複数の変数の中から、問題解決の手順・手続きを一般化すること」だか、こんな小難しいこと言わなくても、『SPA』に載った私の知り合いでいつも雇用や労働問題で意見を交換している溝上憲文氏の意見を基に作成したという「同じ職種でもAIで消える人、生き残る人」の表の方が、圧倒的な説得力がある。この表は、営業やシステム開発、製造などの職種別にAIの影響によって「消える人がいれば、残る人もいる」という現実を例示している。この方が、どうすれば消えないで、残れるようになるか、サラリーマンにとって大いに参考になろう。
 だから私は、AIを知りたければ「朝日新聞などの論壇時評や『世界』とか『中央公論』とかの総合雑誌は読むな」、「『SPA』か『週刊現代』を読め」といつも言っている。この手の雑誌の特徴は、AIの雇用への影響を直に取り上げないで、まずAIで「会社が変わる」ことから入ることだ。会社が変わればサラリーマンもOLも変わり、「雇用が変わる」、ここが大切である。

会社が変わる・仕事が変わる

 2018年9月にこの講演をしてからそろそろ3カ月になる。さっきも言ったように、AIの世界では3カ月過ぎると昔のこと、講演で話したことは一昔前の話なので、新しいネタ報告する。

①メ ガバンクの大リストラ
 東京にいつもより早い木枯らし一番が吹いた後、3メガバンクがAI化で人員削減する具体策を次々に発表した。みずほFGは、現在は全従業員8万人を2021年度までに8000人削減、24年度にさらに6000人、そして26年度までに累計1万9000人の削減を図るとしている。
 また、三井住友FGも2019年度末に4000人分の業務量削減を図る。さらに三菱東京UFJフィナンシャル・グループは2023年度末までに、傘下の三菱東京UFJ銀行の従業員を約6000人減らすと発表している
 低金利で収益環境の厳しさが増すなかで、高コスト体質から脱却、ビットコインなどのAI決済手段の新登場などの構造改革を迫まられ、「機械化店舗」への置き換え、顧客対応の省力化に配置転換などで対応するとしている。

②日立製作所
 日立は名札型ウェアラブルセンサーを開発し、個人が社員証のように首からかけて、行動を追跡して働き方改革の実証実験を行っている。
 ところが、一歩先を行く日本マイクロソフト社は、社員一人一人の就業時間の使い方を分析、それをAI分析にかけて、AIが「アナタの日々の業務のムダ」を徹底的に指摘するが、こうなるとAIに四六時中管理されことになり、「えっ、そんなのアリか」ということになる。

③ Fタグの進化
 RFID(radio frequency identifier・RFタグ)は読み取れる方向も自由で、数十ミリ秒~数百ミリ秒 での読み取り、スーパーのカゴにぐちゃぐちゃに入れたままでも、一発で読み取り、レジの無人化が可能になる。ただし単価は10円位で、レジ袋並みの1円以下になれば爆発的に普及しよう。


④ AI投信
  有価証券報告書や新聞・雑誌記事などの膨大な文字情報と過去10年の相場の波形記憶を合わせてAI分析して、夜中でも人に代わってコンビューターが株や債券の売り買いを発注する。最近の低金利下でも高利回りのリターンを挙げているETF(株価指数連動型投資信託)は、このAI投信で成果を上げていると評判になっている。その顧客は、運用資産5000万円以上のハイミドル層だそうだ。

 労働組合の対抗戦略 「AI化三原則」

 この講演の最後に、AI革命が雇用に及ぼす影響と労働組合の取組みについて、次のように述べた。
 ドイツでは政官財一体のIoT推進団体「プラットフォーム・インダストリー4・0」に労働組合のIGメタルが参画して、自らが策定した「労働4・0」を政策協議の場に持ち込み、政府及び経済界に実現を求めて行動している。これに対して、日本はというと、政府には政官財一体の政策プラットフォームは未だなく、また労働組合の方も、連合の取り組みは著しく弱くて遅い。
 ドイツの「労働4・0」については、訳や紹介がされた文献がいくつかあるが、これを読んでも、訳が悪いのか、紹介の要約がよくないのか、どれを読んでもがIGメタルが何をしたいのかよく分からない。これを何とか私流に読み込んで、要約すると以下の3点である。
 ①エンプロイアビリティー(就業能力)の向上による「良質な雇用」の確保
 ②継続的職業訓練を実施する機関を連邦政府に設置
 ③職業訓練期間中の生活維持のために、失業保険から労働のための保険へ
 それで、2016年春に開催されたJCM(金属労協)とIGメタルとの定期協議で、ドイツ側は「労働4・0」の3点について縷々説明しているが、日本の代表(その当時は相原自動車総連会長や有野電機連合委員長)は、「日本では35年前にすでにやって成功している」となぜ言わなかったのか、と述べた。
 この点について、生産性本部の北浦正行氏から、「1980年代のMEの時に電機労連が『ME化五原則』を掲げて取り組んだように、労働組合がいま打ち出す必要があるではないか」とのご意見をもらった。これを聞いて、「あのME原則を書いたのは私です」と答えたが、たしか三原則ではと思ったが、その場ではそのまましておいた。
 確かに、電機労連は1982年7月の定期大会で「マイクロエレクトロニクス革命に対する我々の政策」(「ME化三原則」)を決定した
 1980年は「ロボット元年」と言われた。それ以前から欧州の労働組合で「マイクロチップスはジョブキラーだ」という潮流をつかんでいた私は、これが日本にくると当時の総評やマスコミはME化に反対の論調をとるだろうから、それはまずいと直感した。なぜまずいかというと、80年時点で世界の産業用ロボットの8割は日本で稼働していて、電機業界はそれを新しい輸出商品に育てようとしていたからだ。傘下組合の現場の役に聞くと、ほとんどの人が工場にロボットが導入されているという。ところが、工程が自動化されても従業員の首は切らないという。どうしているのか、現場の声を聞き、早速アンケート調査を実施すると、配置転換や職種転換で雇用を維持しているということだった。この調査を踏まえて電機労連「三原則」を策定した。
 その内容は、
 ①MEの導入には事前協議を徹底し、労働組合との協議が整わないものは認めない。
 ②導入に当っては人員整理など雇用への直接的影響がある場合はこれを認めない。
 ③労働安全面について配慮し、定期的に労働組合がチェックする。加えて配転・職種転換と教育・訓練を充実する。
 これで、日本の電機産業はME化路線にスムースに乗り、80年代のジャパン・アズ・NO1に駆け上がる契機をつくることになる。
 その2年後の84年4月、政府が雇用問題政策会議(有沢広巳座長)の場で「ME化五原則」を定めた。これは「電機三原則」の基本的なフレームの上に、「政労使間の意思疎通」と「国際経済社会への寄与」を追加したものである。
 今度のドイツの「労働4・0」と35年前の「ME化五原則」を読み比べると、労働者の雇用の確保、職業訓練・教育訓練など、日本がすでに35年前に言っていたことと同じである。
 先の総選挙で大勝した安倍一強政権は、18春闘での「3%の賃上げ」と「AIなどの生産性革命」をセットで進めてアベノミクスを再加速して、さらなる長期政権に向けた戦略を打ち上げている。
 連合とその構成組織である産業別労働組合は、直ちに職場に入って現場の生の声を聞き、春闘の要求提出までに緊急調査を実施して、それを踏まえて「AI三原則」でも「五原則」でもいいから、シンプルで分りやすい政策をつくり、一強政権への対抗戦略を打ち上げることである。

(現代の理論 2018冬号)
 

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