デス記者日誌(5)日本は質問できない国なのか 2018年春
南 彰
▼相撲協会の「肖像権」ルール
大相撲の元横綱・日馬富士による傷害事件を受けて、日本相撲協会が設置した第三者委員会の初会合が開かれた2月8日。あるテレビ局が記者会見から締め出された。
「世界中で肖像権が叫ばれている中、垂れ流しは見逃せない」
その場にいた記者によると、広報部の芝田山副部長(元横綱・大乃国)はこんな風に憤ったという。
出入り禁止になったのは、前夜に「独占緊急特報!!貴乃花親方105日沈黙破りすべてを語る」の2時間番組を放送したテレビ朝日だ。この番組の放送に際して必要な申請書類を相撲協会に提出せず、無許可のまま放送したことが理由だ。
相撲協会は親方や力士らの肖像権を管理しており、テレビ局は放送のたびに協会に申請をして許可を得るルールになっている。協会側はテレビ朝日がそのルールを破り、「肖像権を侵害した」と主張したのだ。
同じ時期にフジテレビも貴乃花親方のインタビューを放送したが、こちらは事前に申請書類が提出されていたため、問題にはならなかったという。また、テレビ朝日にも1月末に申請書類の偽造が判明したばかりで、「この前、注意したばかりなのに」と相撲協会につけ込まれる落ち度はあった。しかし、在京キー局のある番組責任者は、協会のルールの本質は肖像権とは別のところにあると感じている。
「肖像権と言えばもっともらしい理由に聞こえるかもしれないが、事前に報道内容を書いて申請したら、許可されるかわからない不安を現場は抱えている。協会に申請書を出して、速やかに返事がくるわけでもないしね。事実上、『自分たちに不都合な話を好き勝手に報道してもらっては困るよ』と牽制する効果を発揮している」
テレビ朝日が報じた貴乃花親方のインタビューは、弟子の貴ノ岩への暴行事件について、八角理事長(元横綱・北勝海)らから被害届の取り下げを打診されたことを認めるなど、協会に不都合な内容が含まれた番組だった。また、貴乃花は番組のなかで、日本相撲協会の危機管理委員会の発表を否定。貴ノ岩の証言と異なるため、これまでに20通を超える反論文書を提出していたことも明らかにしたものだった。
再発防止のために開かれた第三者委員会後の記者会見には、そうした新証言を手にした報道機関や記者こそ参加して、活発な質疑を展開するのがあるべき姿だったのではないだろうか。
▼麻生会見の形骸化
ところで、昨年11月の暴行問題発覚以来、話題作りで相撲の後塵を拝してきた国会で2月21日、政治とメディアの関係を示す興味深い数字が財務省から示された。
要求したのは、希望の党の柚木道義衆院議員だ。「平成29年4月1日~平成30年2月21日の期間における麻生財務大臣の閣議後記者会見の場所」と書かれた紙には、こんな数字が並ぶ。
財務省会見室……………………8回
官邸3階エントランスホール…51回
国会内……………………………20回
閣議後会見は毎週火・金曜日の閣議後に全閣僚が行っている。直後に委員会審議の時間が迫っているなどの事情がなければ、各省の会見室で行うのが基本だ。ところが、麻生太郎財務相の場合、79回のうち、フリーランスや財務省記者クラブ以外の記者も参加しやすい会見室で開かれたのはわずか1割程度。およそ3分の2が、入構規制の厳しい官邸のエントランスで行うぶら下がり形式に簡略化されていたのだ。
たとえば、昨年11月24日。森友学園の国有地売却について、会計検査院が約8億円値引きの根拠が不十分と指摘する報告書が出た直後の閣議後会見も官邸エントランスでのぶら下がり形式だった。麻生氏とのやりとりはこんな感じだった。
麻生氏 「森友学園の国有地売却について、会計検査院の報告書が公表されている。財務省としてはこの結果を重く受け止めなければならないと考えている。この検査院の報告、さらには国会での議論をふまえ、今後国有財産の管理処分について手続きの明確化をはかり、例外は極力つくらない。(中略)見直しの具体的内容は財政制度審議会国有財産分科会で検討おこなってまいりたいと考えている。くわしくはのちほど事務方から」
テレビ局記者 「そもそも今回こういったずさんな結果になった財産処分がなぜ行われたか。今回の結果うけて財務省内でどなたかが責任とるのか。忖度はあったのか」
麻生氏 「今の段階で答えることはありません」
新聞記者 「先ほどおっしゃったのは今後の対策だった。森友学園の件について省内で検証やりなおす考えは」
麻生氏 「今のところありません」
テレビ局記者 「森友学園について…」
麻生氏 「1社1問だぜ。おれの仕切りじゃないから許可はこっちからもらってくれ」
「こっち」と麻生氏に言われた幹事社が了解し、テレビ局記者は「すいません、ありがとうございます」と言って追加質問に入れたが、従来の財務省の説明が覆った報告書が提出されて初めての記者会見にもかかわらず、森友関連の質問は3問。別のテーマの質問を入れても計5問で終わってしまった。財務省のホームページに掲載する「会見概要」からは「1社1問だぜ」といったやりとりは省かれている。
さらに実態を会見のメモから洗ってみると、11月29日(官邸)=2問▽12月1日(国会内)=1問▽5日(国会内)=3問▽8日(官邸)=2問……といった具合だ。昨年11月24日から今年2月23日までの3カ月間の会見1回あたりの質問は2・84問。1問だけで終わった会見も4回あった。
柚木氏は2月22日の衆院予算委で「こういうことをしていれば、佐川長官に『ちゃんと記者会見しろ』と指導できるはずもない」と麻生氏を追及。さらに、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」が発表している報道の自由度ランキングが民主党政権時よりも下がっていることに触れ、「ランキングが急降下する要因になっているのではないか」とただした。
「会見場所にかかわらず記者の質問があれば、丁寧に答えている。報道の自由度はある。ランキングを上げるためにやっているつもりはない」
麻生氏はこう反論したが、先述したやりとりとの落差は大きい。
▼首相に聞けない
昨年12月、NPO法人「ヒューマンライツ・ナウ」が世界人権デーにちなんで開いたシンポジウム「今、問われるメディアの独立と報道の自由」でも、私は菅義偉官房長官の会見と並んで麻生会見の問題を指摘した。
もちろん、十分な質疑が行われていないのは記者側にも原因がある。例えば、「麻生は記者に逆質問をしてくるのでかかわりたくない」といった姿勢だ。しかし、それを差し引いたとしても、質問をきちんとできる機会がどんどん狭められてきているという危機的状況がそこにあらわれていると思うからだ。
疑問点を問いただし、事実関係を明らかにする。そうした記者としての職責を全うするには「質問」が必要だ。
しかし、こうした質問機会の制約は麻生氏の会見にとどまらない。
なにより減少が顕著なのは首相への質問機会だ。かつては執務室に出入りする際や国会内での移動の最中に、記者が横について話を聞くことができた。2001年から立ち止まって記者の質問に答える「ぶら下がり」取材に切り替わった後も、平日には原則2回、記者が質問する機会が確保されていたが、2011年に「東日本大震災への対応」を理由に中止。
2011年……26回
2017年……4回
これは首相官邸で行われた首相記者会見の回数だ。2017年の4回の記者会見で、首相が受けた質問はあわせて20問。また、質問を受け付けずに一方的にテレビカメラの前で発信する「ぶら下がり」も近年増えている。
もし、かつてのように日常的に首相に質問することができれば、「加計孝太郎理事長との会食はおごったり、おごられたりというが、安倍首相は何回おごられたのか」「本当に会食やゴルフをしていた時には加計学園の獣医学部新設の意向を知らなかったのか」など、いまだにもやもやしている森友・加計問題の謎について、もっと早く国民が判断を下す材料がそろっただろう。安倍政権の下で、国会における首相への質問機会も削減する動きが進んでいる。安倍首相はかつて、こんな主張をしていた。
「政権を厳しく監視するには野党の国会議員において政権の統治行為に少しでも疑念があれば追及する態度が肝腎であり、一から百まで裏取りをしてからの指摘は事実上無理である」「(メルマガの)記事が端緒となって国会等において政治的議論が交わされ、真実が見えてくることを期待している」
裁量労働制で働く人の労働時間について「平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と安倍首相が答弁し、推進しようとしていた働き方改革関連法案をめぐるデータの誤り、恣意的な使用方法は、粘り強い野党の質問によってようやく明らかになってきた。このまま、日本を質問ができない国にしていいのか。普通に質問できる環境を次の世代に引き渡していけるよう、いまアクションを検討している。
《南彰プロフィール》
1979年生まれ。
2002年朝日新聞社入社。仙台、千葉総局を経て、2008年から政治部。
青木幹雄氏の担当時代に出雲の政治風土をつづったルポ「探訪保守」を執筆した。
2013年~15年は大阪で大阪都構想の住民投票に突き進んだ橋下徹氏を取材、共著「ルポ・橋下徹」を出版。
2023年10月、朝日新聞社退社。現、琉球新報編集委員
(現代の理論 2018春号)
*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より

