鎌田慧 口誅筆伐(4)再処理工場廃棄宣言 2018年冬

避難訓練が稼働の条件

 そんな工場があるんだ。危険な工場など操業禁止するのが国の仕事のはずだ。かつて公害企業はきびしく摘発された。ところがいまは、危険は承知、事故があったらお前たちが避難せよ。それが政府の方針。本末転倒、危険な工場は停止せよ、というべきじゃないか。
 それも全国に50原発がある。避難訓練は、30キロ圏内の住民全員に強制されている。一旦緩急あれば、畑や田んぼ、草原山林。湖沼や海岸は放射能漬けとなり、数万、数十万の住民は家郷を失い、流浪の民となる。
 国破れて山河あり。敗戦になっても帰るべき故郷はあった。原発事故は日本列島の一部を破壊した。これほど壊滅的な打撃をうけても、政府はまだ「聖戦」を強要している。
 国民の安全と幸福を保証するのが、政府の責務のはずだ。この耐え難きを耐えなければならない受忍義務を、国民に課して平然としているのは、軍部独裁の軍事国家の話ではない。選挙があり、基本的人権が憲法によって認められている、只今、現在の話である。
 この国はかつて、「東洋の真珠」といわれ、首相が自著で「美しい国」と自画自賛、ところが、放射能まみれ、住民は路頭に迷っている。世にも不思議な国の日常生活である。
 事故が起きたらうまく逃げろ。
 これが政府の方針である。放射能発生源の社員は白いビニール製、頭から被る防護服をもっている。が、防護服のない住民にたいしてわずかに与えられるのは、甲状腺がんを防ぐ、とされるヨード剤だけである。困るのは病院の入院患者で、点滴のビンを吊しての長距離逃避行が、死を速めたが補償はない。
 原発爆発から7年目に入った。昨年から放射線だらけの故郷へ帰れ、補償は打ち切るとの冷酷な政策がはじまった。
 安倍首相は「原発はコントロール下にある」と真っ赤なウソをついて、オリンピックを無理やり引っ張ってきた。オリンピックを政権維持の手段につかう魂胆だ。
 だから、オリンピック開会式のときになっても、住民が帰っていなければ、ウソだった、と馬脚をあらわすことになる。ウソも方便。ウソの上塗り政治。オリンピックが終わったあと、白血病やガン患者がふえていたにしても、因果関係は立証できないさ、と安倍首相は高を括っている。
 便秘でも猛然と食べ続ける核依存症
 「避難訓練つき再稼働」。この奇想天外、ブラック工場の操業を認めるのが、「原子力規制委員会」。別名「原子力推進委員会」である。この委員長は、再稼働は認めても「事故が起きないと保証するものではない」と明言して責任逃れ。事故が起きないことはない、あやふやな再稼働でも、責任者はどこにもいない、曖昧国家。
 困るのは後始末だ。使い終わった核燃料の捨て場は、日本中、どこを探しても適地はない。ノルウェーの「オンカロ」のような、固い岩盤にまもられた洞窟があるわけではない。高レベル核廃棄物は、近づいただけでコロリと死ぬほど、強い放射線を発している。捨て場がなくとも、なに喰わぬ顔で運転し、核廃棄物をだし続ける。やがて自分がだした、猛毒の排泄物まみれとなって運転不能に陥るのは、いまから予見できるたしかな未来である。
 便秘でありながらも猛然と食べ続ける核依存症、出口のない集団自殺行為である。原発は危険な迷惑施設だ。運転中も危険、運転中止後も危険。危険は永遠につづく。

原発行政出口無し

 日本の原子力行政は、「夢の増殖炉・もんじゅ」の破綻によって、幕引きの時代にはいった。もはや出口はない。使用済み核燃料の解決策としての「核燃料サイクル」は、机上の空論、幻の計画だったことが証明された。
 もんじゅの前工程に位置づけられていたのが、六ヶ所村に建設途上の「再処理工場」だった。捨て場のない核廃棄物を原料にして、プルトニウムを取り出してご覧にいれます。工場から無限に原料が生産できるのですから、原発の原料に事欠く心配は無用です。
 使用済み燃料から、ウランやプルトニウムを取り出す再処理工場。ここで生産されたプルトニウムを「もんじゅ」に供給、もんじゅがそれを発電につかう。その核燃料サイクルが無限につづく、はずだった。
 さらには、やはり六ヶ所村に建設する「MOX工場」で、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)を製造して各地の原発に供給する。だから、ウランにふくまれていたプルトニウムを貯蔵したりして、核兵器に転用することはありません、と証明するはずだった。
 ところが、1984年4月に、業界団体の電事連が「核燃料サイクル基地」にすると発表(70年代初めからあった計画だったが秘密にされていた)、低レベル放射性廃棄物処分場、ウラン濃縮工場につづけて、再処理工場が靑森県六ヶ所村で、93年4月に着工された。完成予定は1997年だった。
 が、着工から24年、四半世紀がすぎても、再処理工場は試運転さえ成功していない。この間、24回も「来年には完成する」と言い張り、予算を確保し続けてきた。当初予算はサイクル合計で1兆円と言われていたが、再処理工場だけで、すでに2兆9000億円を費消した。
 これから稼働したら40年間の運営費は、13兆9000億円、と見積もられているが、稼働の見通しはほとんどない。ウラン濃縮工場も、出火、給排気ダクトの腐食、穴の貫通などが発見されて運転停止。再処理工場は雨漏れ続出のポンコツ状態、それでも「異常なし」と報告してきた。
 「平成4年の操業開始以降実施していなかったとか、本来見るべきところを見ていなかった等々、びっくりするようなことが沢山あるわけでございます」
 再処理工場や濃縮ウラン工場など、原子力産業のヘソというべき、「核燃料サイクル」を受け持っている日本原燃の「新規制基準適合性」審査中の、「びっくり」コメントである。発言者は、17年10月11日の規制委員会での田中知委員長代理。続けての発言。
 「日本原燃の抱えている問題は、単に原子力規制委員会が所管している炉規法(核原料物質、核燃料物質、及び原子炉の規制に関する法律)に基づく安全確保の問題にとどまらず、そもそもとなる事業運営の問題だと考えます。この問題は、組織改変などの表面的な改善では解決できないと考えます。スケジュールありきで進めると、むしろ失敗のおそれも大きいと思う」
 これにたいして、工藤健二日本原燃社長は、「最大限の危機感をもってしっかり取り組む」と答えたが、24年たっても、なお稼働できない工場など、世界的、歴史的珍事というべきものだ。
 「適合性審査」は中断、でお茶を濁している。が、いたずらに時間と資金を浪費せず、できないものはできない、と中止を宣言するのが賢明な政治である。再処理工場は、たとえ「完成」したとしても、安全運転はおぼつかない。もんじゅに続けて、いま再処理廃棄宣言をすべきときだ。
 靑森県下北半島で立ち腐れ状態の電源開発の「フルMOX原発」も廃止、出口なき原発行政から撤退すべきだ。 

(現代の理論 2018冬号)

*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より