POLITICAL ECONOMY 第307号 買春処罰化だけでよいのか(下)

金田 麗子(街角ウォッチャー)

要点
1.「人身取引罪」は実際には機能していない
2.本質的に問題なのは「強制・搾取・暴力」であり、これを処罰すべき
3.「射精責任」の観点からも、女性に危険を負わせる行為は性暴力。

 「シモーヌ」(2026年冬号、サッフォー)の特集『買春処置は誰のため』は、フランスの「買春システム対策の影響調査や、北欧モデルの政策、買春者の犯罪化が、セックスワーカーにどのような影響を与えているかなどの論文をまとめて掲載しており、参考になった。

 このような議論に対し反論しているのが、『性売買のブラックホール』(シンパク・ジニョン著、ころから)である。同書では、韓国は日本による侵略期に持ち込まれた日本式公娼制度と、高度成長期に日本人男性を主な買春者として行われた妓生観光の歴史、米軍基地周辺に性風俗店が作られた経過から、性売買風俗産業が肥大化したと指摘されている。

 韓国は2004年に「性売買禁止法」を制定。「性売買あっせん等行為の処罰に関する法律」と、「性売買防止および被害者保護等に関する法律」により、性売買業者と買春者の処罰、性買春からの離脱を希望する女性への自立支援体制をとっている。「自発的性売買女性」は処罰の対象ではあるが、保護法では自立支援のための対象者としている。

 合法的規制主義のドイツやオランダ、非犯罪化のニュージーランドにおける実態調査を現地で行い、人身売買の増加、性売買産業の規模拡大だけでなく、業者がサービス内容、回数、費用などの決定権を握り自由に交渉できない。このため、より危険な行為の強要につながっている実態など報告されていて、北欧型でなければ女性に対する性暴力をやめさせることも、人権も守れないと指摘している。

 「シモーヌ」で紹介された論文でも、各国が試行錯誤していてこの方法ならすべてうまくいっているとは言っていない。韓国もいまだ性売買市場は巨大で、女性たちの運動団体が法改正も含め奮闘している。

機能していない「人身取引罪」が問題

 神戸大の青山薫教授は、12歳のタイ人少女の被害について、「人身取引事件」であり18才未満の児童に対する買春とあっせんを規制し処罰する「児童買春・児童ポルノ等禁止法」違反であり、刑法の16才未満に対する「不同意わいせつ罪」違反の事件でもある。この少女に性的サービスを強要し、性的、経済的に搾取、虐待した大人たちを裁く法律は既に存在している。なぜ既存の法律の活用ではなく、新たな法規制に力が注がれるのかと指摘している。

 「人身取引罪」が有効に機能しているのかについては、2025年11月19日の衆議院法務委員会でも議論になっている。

 2024年度に人身取引に関連して起訴された47人のうち、この罪名が適用された例は無く、15年から23年までの9年間に「人身取引罪」による検挙はまったくない。

 国際人権法学者の米田真澄氏によると「人身取引罪の成立要件である不法な支配の確立とその移転について、売渡人が被害者に対して支配を確立していたとみなされる基準が狭いため」だという。

 すなわち「人身取引罪」はあっても使えず、未然防止のため買春を処罰する法律を作る必要があるという流れになっている。しかし売買春と人身取引は別のもので、売買春を取り締まっても人身取引はなくならない。「人身取引罪」が有効に活用できるように、法改正あるいは強化をするべきである。

性売買の強制、搾取、暴力行為を許さない

 「フェミニズムを学ぶ人のために」(世界思想社)の中で『セックスワーク』を執筆している青山薫氏は、セックスワークを支持するフェミニストと、性取引の廃止を目指すフェミニストの対立に対し、一致点を3つに整理している。

① 金品と引き換えに性行為を提供するものを処罰する法制度に反対する

② 性行為に関わる実質的な同意の実現

③ 性行為を提供する者に対する構造的な強制と搾取、暴力の回避、この問題に対処する公的取り組みの推進

 私はとりわけ、3つ目の「強制、搾取、暴力行為への処罰」こそ、業者、買春者に行うべきと考える。

射精責任はあらゆる場面で問われる

 第一次トランプ政権での、女性の中絶の権利が奪われる危機に対し、ガブリエル・ブレアは『射精責任』(太田出版)を出版、望まない妊娠の責任はすべて男性にあると指摘した。

 「日本の射精責任論」(齋藤圭介編、太田出版)に掲載されている沼崎一郎氏の『〈孕ませる性〉の自己責任』という論文によると、日本では1997年にすでに同様の問題提起がなされていたこと、また、宮地尚子氏による『孕ませる性と孕む性』では、批判的議論の進化が行われていたことが紹介されている。

 望まない妊娠出産は女性にとって、身体的精神的社会的に危険で、沼崎氏は避妊せずに妊娠するような性行為、射精は性暴力であると指弾、恋愛関係や夫婦関係であれ、売買春関係であれ同様の「孕ませない責任」があるという。

 宮地氏は、妊娠だけでなく、不妊、性行為感染症も視野に入れるべきで、孕ませるだけでなく、中絶の結果不妊になったり、感染症にかかるリスクなども指摘している。

 私は、出産直前まで性売買をおこなっていた女性の支援をした経験から、金銭を払ったから、同意があったから、性嗜好だからと女性を危険にさらすことは許されないし、業者も買春者も処罰されるべきだと思う。どのような場面であっても、射精責任を果たさないということは、女性に対する性暴力なのである。

(おわり)

※メルマガ配信の際には「シモーヌ」(2026年冬号、現代書館)と記しておりましたが、2026年冬号より発行元がサッフォーに変更となりました。HPの本記事では「シモーヌ」(2026年冬号、サッフォー)に訂正させていただきます。

*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より

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