沖縄の助産婦、海をあるく(1)月の満ちかけとお産
トルネイドまーりー
満月や新月が近くなると、ドキドキする。大潮がくるからだ。5月6月の満月の夜、沖縄の海にピンクの花が咲くように珊瑚はいっせいに産卵する。デイゴがきれいに咲き誇る年は台風が多いという。自然界の生き物たちはどうやって、その時が満ちるのを知るのだろう? 満月のパワーとお産は無関係ではない。産科学や医療技術がどんなに進化しても、陣痛はどうやって引き起こされるのか、いまだ神秘の世界だ。赤ちゃんがスイッチをいれるという説を私は信じる。女性の意志の力では、陣痛を起こせない。お腹の赤ちゃんに、そろそろ来てほしいとお願いするしかない。
3・11の1年後、東京から沖縄に移住した。助産婦免許をとった年に、途中から名称が助産師に変わり、違和感を覚えた。助産師って何するひと? 助産婦は、女性を助けるため。お産は病気ではない。女性の生理的な営みだ。だから、医学モデルにあてはまらないことがある。看護と助産は起源が別なのだ。
○○さん、そろそろかなぁ。来てほしいなぁ……とカレンダーを眺めながらおろおろする。予定日を超過すると、胎盤は老化する。子宮と胎盤の血流が悪くなり。赤ちゃんに酸素と栄養がいき渡らなくなる。羊水量も減ってくるので、赤ちゃんにストレスがかかる。昔の産婆さんたちは、お迎え棒といい、陣痛を起こそうとSEXをすすめた。精液のなかに陣痛をひきおこすプロスタグランジンが含まれるからだ。しかし現代は、医療介入を避けられない。人工的に子宮頚管を開大させる処置をし、陣痛促進剤を投与する。いつまで待てるかは、医師の裁量にかかっている。
満月は満ちる勢いがすごい。からだが膨張したり、興奮したりする。満月は手術を避けたほうがよい、とする考えもある。血圧が上がり易く、出血が多くなるからだ。骨盤の開閉もダイナミックになる。満月あたりで産気づく女性は多い。自然界のリズムにそった生活をしていればだ。パソコンにかじりつく仕事が増えれば、骨盤はブロックされてガチガチになる。コロナ禍で、妊娠性糖尿病や分娩時の回旋異常が増えた。ステイホームによる運動不足と食べ過ぎ、ストレスだろう。いま働いているクリニックは、ローリスクの妊婦さんのお産は助産婦に任されている。順調なら医師を呼ばず助産婦だけでフリースタイル、アクティブバースのお産ができる。湯船につかったり、天井から下がる産み綱を掴んで重力の力をかりていきんでみたり、布団の上で四つん這いになってみたり。女性が自由に動いて、能動的なお産ができるようサポートしている。
だから、時満ちても陣痛が来なかったり、陣痛が来ても、赤ちゃんが骨盤の背中側に回ってしまう回旋異常は困ったことなのだ。赤ちゃんの頭が骨盤内にスムーズに入って来ないから、陣痛が弱い。母の背中側が圧迫されて痛い! 陣痛は間延びし、お産は進まない。医療介入はできるだけ避けたい。エネルギーの消耗を最小限にするよう、腰をオイルマッサージしたり、温めたりしながら、四つん這いでお尻をフリフリしてもらう。そうしているうち赤ちゃんが自ら廻ってくれて、無事に生まれることもある。分娩停止したら陣痛促進剤を点滴する。それでも赤ちゃんが降りて来ない場合、吸引分娩や緊急帝王切開になることもある。
実は私は満月生まれだ。地球に迎えてくれた母に感謝だ。私を産んだときは楽だったが、3番目の弟の出産が一番つらかったという。弟の予定日が元旦で、計画分娩だったからだ。人工的な陣痛がどんなにきつかったか、自然な陣痛を経験しているからこそだろう。55年前すでに医療介入は増えていた。
はじめて久高島に渡ったのは、2000年頃だったか。今の安座真港ではなく、馬天港から小さい船に乗った。船は揺れた。「おーこれが、陣痛か?」と思った。波の上に乗れていないと、振り落とされそうになる。次に久高島に渡ったのは、2009年。安座真港から大きめのフェリーで、以前の船ほどは揺れない。なぜか島に渡る中間地点くらいで、眠くなるスポットがある。何回も久高島を行き来したが、いつも眠くなる。周りも寝てる人が多い。これも陣痛だ。オキシトシンホルモンやベータエンドルフィンが出て、お産が近づくと、うとうと眠くなる。産婦さんだけでない。腰をさすっている私も、隣にいるパートナーさんも、3人で船を漕いでいるときがある。
女性のからだをなめてはいけない。もともと産む力が備わっているのだ。からだを起こして重力を使い、耳元で優しく囁やく水先案内人や、親身に腰をさする人がいれば、麻酔を使わなくとも自力で山の頂上に登れるのだ!そこには濡れた瞳の赤ちゃんが、羊水の海からあがって待っている!
さぁ、明日も子宮から地球へ赤ちゃんをお迎えしよう!
(現代の理論2023夏号)
*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より


