同性婚と憲法―同性カップルの人権保障のために 政府は民法と戸籍法の改正を

内藤 光博(専修大学法学部教授)

 はじめに

 現在、性的少数者(LGBTQの方々)の差別問題と憲法上の人権保障のあり方について議論が高まり、とりわけ同性カップルの婚姻(同性婚)を強く求める動きが強まっている。
 日本国憲法は、その13条で、「個人の尊重」を最高の価値として、個人の多様性を前提として、様々な基本的自由と憲法上の権利を保障している。
 婚姻については、24条が、「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として成立し、相互の協力により、維持されなければならない」(1項)、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」(2項)と規定し、男女による異性婚のみを想定しているかに見えることから、民法および戸籍法は、同性婚のみを法律上の婚姻としており、市役所や区役所では、同性による婚姻届けは、受理されない。
 こうした同性婚を否定するわが国の法制度に対して、2019年には、同性婚を望む同性カップルの方々が、同性婚を認めていない民法および戸籍法の規定は、法の下の平等に反し違憲であり国が、民法と戸籍法を改正して同性婚を認めるなど、必要な立法措置を講じてこなかったことは憲法違反であるとして、国家賠償法に基づき国に慰謝料を請求する裁判(いわゆる同性婚訴訟)が、全国5地裁(東京、大阪、名古屋、札幌、福岡)に提起された。
 その中にあって、2021年3月17日、最初の判決として、札幌地裁が、損害賠償請求は棄却したものの、同性婚を認めていない民法および戸籍法の規定は「合理的根拠を欠く差別」であり、法の下の平等を規定する憲法14条に照らし違憲であるとする画期的判決を下した。しかし、2022年6月20日には、2例目の判決として、大阪地裁が、同性婚を認めていない上記規定を合憲とする判決を下した。さらには、3例目の判決として、2022年11月30日、東京地裁が、結論としては上記規定を合憲としたものの、同性カップルが家族になる法制度がない現状は、同性愛者への重大な脅威、侵害であり、憲法24条の2項に違反する「違憲状態」であるとした。
 本稿では、同性婚訴訟において、それぞれ異なる見解を示した以上の3判決をもとに、憲法上の人権保障の視点から同性婚の問題を考えてみたい。

札幌地裁「違憲」判決

 まずは、同性婚を認めていない現行法を違憲とした札幌地裁の判決を見てみよう。判決要旨は以下の通りである。
 (1)憲法24条は、「両性」「夫婦」という文言を用いていることから、異性婚について定めたものであり、同性婚について定めるものではないので、民法および戸籍法が同性婚を認めていないことが、憲法24条に違反するとはいえない。
 (2)性的指向は、自らの意思に関わらず決定される個人の性質であるといえ、性別、人種などと同様のものということができる。異性愛者と同性愛者の違いは、人の意思によって選択・変更し得ない性的指向の差異でしかなく、いかなる性的指向を有する者であっても、享有し得る法的利益に差異はないといわなければならない。同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても、その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず、本件区別取扱いは、その限度で合理的根拠を欠く差別取扱いに当たり、憲法14条1項に違反する。

 大阪地裁「合憲」判決

 次に、大阪地裁が下した合憲判決の論旨を見てみよう。
 (1)憲法24条は、「両性の本質的平等」および「夫婦」という文言を使っており、男女間の婚姻について定めたものであり、同性婚を想定していない。その上で、異性間の婚姻の目的は「男女が子を産み育てる関係を社会が保護するものだ」と位置づけ、異性間の婚姻制度は「歴史的、伝統的に社会に定着している」とし、同性間の関係にどのような法的保護を与えるかどうかは「議論の過程」にある。
 (2)同性婚を認めるか否かは、性的指向という本人の意思や努力では変えられない事柄によって取扱いを区別するものだから、憲法14条1項の規定する法の下の平等の視点から慎重に検討する必要があるが、異性カップルが受ける法的利益との差異は緩和されつつあり、現状の違いは立法裁量の範囲を超えているとは言えず、憲法14条に違反しない。
 (3)今後の社会状況の変化によっては、同性婚が導入されないことが違憲になる可能性があり、同性カップルの関係につき、新たに婚姻に類似する法的承認の制度を創設することも可能である。

 東京地裁「違憲状態」判決

 さらに、3例目の判決である東京地裁判決の「違憲状態」とする判決を見てみよう。
 (1)婚姻とは「伝統的に、男女の生活共同体として子の看護養育や共同生活等の維持によって家族の中核を形成するもの」と捉えられ、その社会的承認の背景が「夫婦となった男女が子を産み育て、家族として共同生活を送りながら、次の世代につないでいくという社会にとって重要かつ不可欠な役割を果たしてきた」。こうした社会通念からすると、憲法24条1項の「婚姻」が異性婚を指すと解するのが相当であり、同項には違反しない。
 (2)憲法24条1項の「婚姻」には同性間の婚姻を含まないのであるから、「区別取り扱いには合理的な根拠が存するものと認められる」ので、憲法14条1項の法の下の平等にも違反しない。
 (3)しかしながら、憲法24条は、法律婚制度に同性間の婚姻を含めることについては何ら触れておらず、本件諸規定が定める婚姻を同性間にも認める立法をすること、または同性間の人的結合関係について婚姻に類する制度を法律により構築することなどを禁止するものではない。このような立法は、その内容が個人の尊厳と両性の本質的平等に反し立法府に与えられた裁量権の範囲を逸脱するものでない限り、憲法24条に違反するものではないということができるが、「家族としての法的保護を受け、社会的公証を受けることができる利益」を婚姻により得られる人格的利益であり、同性愛者が特定のパートナーと家族になるための法制度が設けられていないことは、24条2項に「違反する状態にある」ものの、法制度の構築は立法裁量に委ねられているのであるから、同条項に違反するとまでは言えない。

 同性婚をめぐる地裁判決の視点

 以上のように、同性婚訴訟をめぐる三つの地方裁判所の憲法判断は分かれているが、憲法の視点から、同性婚を認めていない現行の法制度の見直しを求める方向性にあるとみる見解が強まってきていると見ることができる。
 札幌地裁は、同性カップルは「婚姻で生じる法的効果の一部ですらも享受する法的手段が提供されていない」ことを根拠に、「合理的根拠を欠く差別」だとし憲法14条1項の法の下の平等違反であるとした。
 また、東京地裁判決は、憲法24条は同性婚を認める立法をすることを禁止しているものではなく、同性婚を認めていない現行の法制度は24条2項に反する違憲状態にあるとした。
 さらには、同性婚を認めない現行法制を合憲とする大阪地裁判決でも、同性婚を認めるべきかは「議論の過程にある」とし、現時点では「立法府の裁量を超えて憲法に違反しているとまでは言えない」としたのであり、民法および戸籍法の改正により同性婚を認めても違憲にはならないとの消極的肯定論とも言える見解を示している。

 同性婚をめぐる国内外の現状

 現在、同性婚ないし登録パートナーシップなど同性カップルの権利を保障する制度を持つ国・地域は、世界中の約20%の国・地域に及んでいる(2023年2月現在、NPO法人EMAの公式サイトによる)。
 日本では、民法および戸籍法が同性婚を認めておらず、政府による同性婚制度の積極的導入への方向性も示されていない。他方、地方公共団体では、2015年の東京都渋谷区と世田谷区のパートナーシップ制度に始まり、300以上の自治体でパートナーシップ制度が施行されている(2023年7月現在、Marriage for All Japanの公式サイトによる)。しかし、この制度は、各地方公共団体の行政などに対して異性間カップルと同等の対応を求めることまでに限られ、健康保険の被扶養者設定や所得税の配偶者控除などを含む法的処遇について、異性間カップルと同様に受けることができるものではない。
 同性婚それ自体ではなく同性カップルの法的関係に関わる裁判では、これまでにも、同性カップルの共同生活を事実婚とみなし、法的保護の対象になるかどうかが争われた事例はあるが、その司法判断は割れている。たとえば、当事者の関係が破綻し、事実婚の夫婦のように慰謝料を請求できるかが問われた裁判では、保護される利益があると認めたが、財産分与をめぐる家事審判では、同性同士の内縁関係が否定されている。
 こうした同性カップルの法的問題をめぐる実情からも、同性カップルにも「法的婚姻」を認め、異性婚と同様な法的効果を求める声が強くなってきているという背景もある。

 同性カップルの人権保障に向けて

 それでは、日本国憲法のもとで同性婚は認められるのであろうか。これまでの憲法学説から検討してみよう。
 第1に、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」するとの憲法24条1項の規定についてである。
 憲法学説では、この規定については、①「両性」という文言から、文字通り「男女の合意」と解して、同性婚を含まないという見解と、②同条項の趣旨は、明治民法の家制度に基づく婚姻制度の否定にあり、同性間の婚姻については承認されるという見解が対立している。
 この点について、三つの地裁ともに、憲法24条の制定過程と文言から、婚姻は「男女」によるものを想起させるという理由から、①の見解に立っている。
 しかしながら、憲法24条1項の制度趣旨は、憲法制定時の最大の課題のひとつであった、婚姻には親の同意を必要とする「家制度」を前提とする婚姻制度の否定と個人の尊厳に基づく「男女の合意」に基づく婚姻制度の新設にあるのであり、「婚姻の自由」の保障に大きな力点があったと考えるべきであり、②の見解が妥当と言えよう。また、同条項は、とくに同性婚を禁止してはいないのであるから、性的指向の多様性が尊重される現在にあっては、個人の尊厳を基調とする日本国憲法のもと、法律により同性婚を認めても憲法上許容されると言えるだろう。
 第2に、個人の尊重を規定する憲法13条との関係である。
 三つの判決ともに、憲法13条を根拠に、同性婚を含む同性間の婚姻及び家族に関する特定の制度を求める権利が保障されていると解することには否定的である。
 しかし、三つの判決が揃って認めているように、性的指向は、自らの意思に関わらず決定される個人の性質であるといえ、個々人に内在する性的本質であると考えられる。したがって、異性婚、同性婚、あるいは婚姻しないことも含めて、個人に生まれつきそなわっている性的指向は絶対的に尊重されるべきであり、幸福追求権の一つとして「婚姻の自由(「婚姻しない自由」を含む)」が保障されると考えるべきである。
 第3に、憲法14条1項の法の下の平等との関係である。
 三つの地方裁判所の判決では、「性的指向」を、個々人に内在する性的本質としており、性別、人種などと同様に、本人の意思や努力では変えられない事柄として、婚姻によって生じる法的効果の平等性について注目している。
 しかしながら、大阪地裁は、「異性カップルが受ける法的利益との差異は緩和されつつあり、現状の違いは立法裁量の範囲を超えているとは言えず、憲法14条に違反しない」とし、東京地裁も、婚姻を異性間のものに限定していることが憲法14条1項に反するとは言えないと結論づけ、他方で札幌地裁は「異性愛者に対しては婚姻という制度を利用する機会を提供しているにもかかわらず、同性愛者に対しては、婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは、……合理的根拠を欠く差別取扱い」として、法の下の平等に反すると断じており、見解が分かれている。
 思うに、異性愛あるいは同性愛という性的指向性は、自己決定の問題ではなく、各個人のうまれながらに有する性的性質であることから、個人の尊重の憲法原理のもと、法の下の平等による手厚い平等的取扱いが求められる。さらには、上述のように、現在の日本における同性カップルの置かれた法的状況は、異性カップルに比べはるかに不利な状況に置かれていることは否定できず、大阪地裁合憲判決が指摘したような「異性カップルが受ける法的利益との差異は緩和されつつ」ある状況とは到底言えない。とくに法的婚姻が認められていない現状は、同性カップルが、異性カップルと同程度の法的保障を受ける家庭生活をおくれない状況をもたらしており、深刻な人権侵害状況が生じさせている。
 個人の尊重と法の下の平等を基調とする日本国憲法のもと、同性カップルの人権保障を確立するためにも、同性婚は当然認められるべきである。国会には同性婚を認める、一刻も早い法改正が求められる。

ないとう・みつひろ
専修大学法学部教授。専門は憲法学平和主義、慰安婦などの戦後補償問題、表現の自由や生存権などの基本的人権、社会的連帯の憲法論(イタリア憲法)を研究中。「人間の尊厳に最高の価値を置き、平和主義を基礎とする、自由で平等な市民社会」を追求している。

(現代の理論2023年秋号)