労働組合のジェンダー問題 まさか女性差別がないとでも?

中島 由美子(全国一般労働組合東京南部執行委員長)

 2023年のジェンダーギャップ指数が発表され、146カ国中116位だった日本がさらに順位を落とし125位になった。政治分野の男女間格差は、国会中継を見れば、議員のほとんどが背広の男性ばかりでわかりやすい。実は経済分野の格差も依然として100位以下をキープし、今回は123位。教育分野でも高等教育の進学率も教授率の格差も100位以下だ。労働組合の立場として、一向に改善しない男女間賃金格差と女性の非正規雇用率の高さは本当に恥ずかしい。根強い男女役割分担と家父長制、それを土台とした制度的な問題、どれだけ日本は男尊女卑なのか。

男性中心の「ジェンダー平等」

 「ジェンダー平等」は、2021年の流行語大賞のトップ10に選出された。これを受賞したのは連合の芳野友子会長だ。連合によれば、受賞理由は「ジェンダー平等の視点で働く環境の改善を行うことを宣言、非正規雇用者に大きな夢を与えた」という。連合は「ジェンダー平等・多様性推進」を掲げ、すべての取り組みにジェンダー平等と多様性の視点を取り入れた「ジェンダー主流化」を運動の中心に据えるとしている。
 全労連も小畑雅子議長の下、「ジェンダー平等が労働運動と社会の中に根付き、だれもが差別や抑圧から解放されることを全労連と全労連加盟のすべての組織はめざします」と、第31回定期大会(2022年)で「ジェンダー平等宣言」を発し、具体的な取り組みを採択している。
 それゆえ、近年はどこの労働組合でも「ジェンダー平等を実現しよう」というスローガンが掲げられている。私が加盟する全労協も同様にスローガンを掲げる。しかし、毎日新聞の吉永磨美記者は「記者の目 男性中心の労働組合 性差超えジェンダー平等を」(2022年10月21日付)に「連合の中央委員会の会場は多くの男性で占められた。全労協の大会も出席者76人のうち女性は3人」、「二つの中央組織のトップに女性が就任したものの、変わったのは表紙だけではないか」と記した。ことほど「ジェンダー平等」は流行語のように使われるも実態が伴わない。連合でも執行委員に占める女性の割合は10%台と低いそうだが、私の組合執行部も男性中心だ。

長い坂道を転げながら登る

 上部団体の全国一般全国協議会は30年間で女性の中央執行委員経験者は私だけだった。私が役員を降りてから約20年も意思決定の場に女性がいなかった。一昨年ようやく女性が3人入ったとき、新任執行委員の女性名が男性名の下に並べられて発表された「今どきアイウエオ順の混合名簿が当たり前ではないか」と私が指摘すると、「新任だから下です」という答えが返ってきた。ところが翌年も女性の名前が男性の下にあった。「昨年も指摘したが」と問えば「去年のをコピペで使ったから」などと呑気な返事に目の前が暗くなった。あまりにも無自覚で鈍すぎる。
 私はこれまでも大会等で「ジェンダー平等に向けた具体的な取り組み」など意見を出して議論を呼びかけてきたが採用されたことはなかった。悔しいが、発言力のある男性が同じ内容を言う方が通る。そうして一歩前進しても、そんな男性がいなければまた元の木阿弥、長い坂道を転げながら登ることになる。

女性差別を持ち出すな

 私は労働組合上部団体の枠を超えた女性たちや市民運動、女性支援運動を担う女性たちとの交流があるため、時々運動内部にある女性抑圧の実態を聞くことがある。
 そうした女性たちの集まりで若手の女性が「組合内で男性から不要な身体接触を受けた」と話した。これはセクシュアルハラスメントであるので再発防止の周知文を執行部として出してほしいと要望したが、被害を抗議する態度が悪いと批判され、被害者でありながら、組合から排除されそうだと不安を口にした。執行部男性との議論では「女性差別を前面に出さないで、ジェンダー平等の運動ができないのか」と言われたという。
 私も委員長に就任後、「委員長の立場で女性差別を言ったら、組合内の団結が保てなくなる。それを言うのは止めた方がいい」と年配の男性に忠告されたことがある。彼の組合に「何かにつけて女性差別だと言う女がいて、やたらと男性組合員との間で揉め、組織の団結が乱れた」と言うのだ。このとき私は呆気に取られただけで何も言い返せなかった。
 若手女性の話を受け、私がこのエピソードを伝えると、私も女性差別を持ち出すなと言われたとか、セクハラを訴えた被害者の方が脱退したとか、女だけが集まることは心配されるか批判されるかのどちらかだとかと話は広がり、組合の地域も職種も上部団体も違うのに同じ経験が次々と語られた。
 ある委員長経験者は「(女性委員長で)大丈夫か」と考える男性たちから重要な情報を外されるうち自分を過小評価し自己不信になったと、活動意欲を削がれた経験を語った。そして多くの女性たちが経験する「会議で女性の発言中は男性たちの休憩時間になる」は女性組合員の意欲喪失現場だ。タバコを吸いに行く、スマホをいじるなどの男性たちは無意識だからより始末が悪い。
 私がどこかで話した女性労働相談の報告に対してなのだろうが、面識のない男性から「差別は低賃金・非正規労働者、貧困者に向けられるもので女性差別ではない。女性相談が男性からの支援を拒否するのは認められない」と名指しで批判された。なぜ「女性差別の訴え」は嫌悪されるのか。女性差別をなくすことが「ジェンダー平等の実現」ではないのか。

家父長制労働組合

 女性労働は補助的な立場と見なされ、仕事の価値が認められず、低賃金かつ不安定だ。ところが無償、有償に関わらず女性のケア労働なくして社会生活は成り立たない。労働組合でも事務作業の大部分を女性が行い、集会の準備、受付、メッセージの代読、後片付けなどを担う。一方で男性は運動の意思決定を行い、主催者挨拶をし、労働運動の再生など夢を語っている。
 「ジェンダー平等の実現」を掲げながら男性中心の労働組合が深刻なのは、彼らが家父長制とも言える組織運営を手放さないことだ。「何かしきたりがあるみたい」と役員経験者の女性が訝った。「しきたり」はある。人事も握る「オールドボーイズクラブ」だ。最近私は、共闘団体等でどこそこ組合の特定の職にある者を団体の特定の〇〇職に充てる「充て職」というのを知った。どこそこ組合の「特定の職にある者」が女性である場合に、男性に代えられているという現象が私にも起きた。男たちのホモソーシャルが作った暗黙のしきたりでミソジニーが醸成されるのか、女に任せておけないパターナリズムか。男性たちの非公式なコミュニティは企業だけのものではない。労働組合でも人事に力を発揮する。  
 自分たちの意に沿う人材を選んで「オルグ」し、「長男に家督を譲る」がごとく後継者指名をする。そんな組織はザラにある。しきたりに従えば女性が入る余地はない。女性代表者があたかも「お飾り」のように扱われるのは、クラブから選ばれしも「部外者」だからだ。

否定されるパターナリズム

 労働相談にも取り組む次世代のオルガナイザーたちと話すと、彼女、彼らの間では伴走支援が当たり前で、これまでの労働相談の救済型代行主義を否定する。職場で切羽詰まり藁をもすがる思いで労働組合を訪れる労働相談者にとって、組合オルグは支援者ではなく救世主だった。相談者はオルグに見放されることを恐れ、オルグは相談者を救済対象の弱者であると捉え父権的に扱う。となれば、意図せず支配・被支配の関係が生まれ、ハラスメントの土壌になる恐れもある。
 ある女性オルグは「自動車に乗ったら私の行きたいところに連れて行ってくれるオルグと、一緒に自転車の部品を集めて一緒に自転車を組み立ててくれたのに『さあ自転車に乗って自分で漕いで』というオルグの二つのタイプがいたら、相談者としては前者が楽だが労働組合員だったら後者がいいと思う」と、労働組合活動においてオルガナイザーは救世主ではなく伴走者だという考えを述べた。
 次世代の男性たちが「長男」になることを拒否し、「しきたり」を崩すだけでも変化するだろう。しかし女たちが連帯し動かなければ労働組合は変わらない。その一歩のつもりで、仕事とケアの両方を担い、長時間労働を余儀なくされている女性の権利を守るため、「おんなたちのメーデー前夜祭」を今年4月30日に開催した。労働組合員に限らず100人ほどの参加者が集まり、それぞれの思いを自身の言葉で語ると共感の拍手が起きた。

●なかじま・ゆみこ
1959年東京生まれ。1984年労働組合加入、1993年より組合専従。移住者と連帯する全国ネットワーク運営委員。「女性による女性のための相談会」実行委員。「おんなたちのメーデー前夜祭」実行委員。

(現代の理論2023秋号)