【追悼・古川純】「島嶼防衛」と諜報戦? 沖縄・八重山ウオッチ 24
古川 純(本誌編集委員)
軍事問題研究会のニュース配信で防衛省・自衛隊のシンクタンクである防衛研究所(防研)国際シンポジウム「新しい戦略環境と陸上防衛力の役割」第2セッション「島嶼防衛における陸上防衛力の役割と有用性―新たな戦いの時代における陸上防衛力―」における元陸幕長(第34代陸幕長・岩田清文氏)講演資料が防衛省によって報告書として開示されたことが明らかにされた(すでに「しんぶん赤旗」が「反戦デモ 国家崩壊の危険」の記事で報道されていたもの)。元陸幕長は島嶼防衛における陸上自衛隊の役割について「島内反対派が流すデマ等により民意が誘導され易い」と発表していた。
これらの用語で思い出すのは、第二次大戦・アジア太平洋戦争における『陸軍中野学校と沖縄戦』(川満彰、吉川弘文館、2018・4・18)、三上智恵『証言沖縄スパイ戦史』(集英社新書、2020・2・22)、三上智恵・大矢英代監督のドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(2018・7・28公開)の優れた証言者取材に基づく歴史的な問題提起である。
元陸幕長報告内容は防研シンポ後の報告書(軍問研ニュースの要約による)によると、ロシアによるクリミア併合を引き合いに、島嶼防衛においては「離島に居住する住民に対するハイブリッド戦からの防護」が重要であるとする。そのためには旅行客を装うなど平時あるいはグレーゾーンの段階から隠密裏に潜入する特殊部隊や工作員さらに国内支援者への対応が必要であると共に、「島内反対派が流すデマ等により民意が誘導され易い状態になることからも自治体、警察等との綿密な連絡が重要」であるとしている。
軍問研ニュースの分析紹介は、「島内反対派」の具体的な定義はないが、文脈から理解すると自衛隊配備に反対する島民と理解せざるを得ない、南西諸島への新たな自衛隊配備に反対する地元住民への「陸自最高司令官の本音」が思わず漏れたといえよう、と指摘する。私はより進んで、帝国陸軍・中野学校将官の沖縄・八重山など島嶼に住む住民観の本質(体質)は陸自最高司令官に継承され機会あるごとに表出される!と分析断言したいと思う。
陸軍中野学校はアジア太平洋戦争の末期に沖縄戦を想定して、青年将校42名を「ゲリラ戦、秘密戦、防諜活動、謀略宣伝など諜報活動を任務とする」特殊部隊を送り込んだ。彼らは住民の間に非軍人を装って住み、ひそかに諜報活動を行った。さらには10代半ばの少年兵を組織して「護卿隊」を作り、日本軍のゲリラ戦部隊とした。生存者インタビュー取材で制作されたドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」で語られる命がけの少年兵ゲリラ戦は中野学校将官の沖縄住民観を明らかにしている。
米中緊張関係がロシアのウクライナ侵略類似の台湾軍事侵攻という戦争状態になるならば(いわゆる台湾有事で在沖縄米軍の台湾防衛・援護出動から自衛隊の安保法制準拠による米軍後方支援出動の可能性)在沖縄自衛隊(宮古島や与那国島の自衛隊基地、石垣島に建設中の自衛隊基地)による島嶼防衛行動が想定されるだろう。自衛隊行動への反対・反戦運動が沸き起こり広がるのは容易に予想される。元陸幕長の報告発言「民意が誘導され易い状態」という評価を受けて陸上自衛隊の諜報活動が展開されることは明らかであり、むしろ今日の「平時」から陸自基地隊員の中にはそのような諜報任務を持った隊員が配置・配備されていると見なければならない。陸軍中野学校の諜報は陸自に継承されており、「有事」にあるいはグレーゾーンに発現すると構えておかなければならないと私は考える。
(現代の理論2022年秋号)
アイキャッチ画像 沖縄県ホームページより