POLITICAL ECONOMY 第310号 「右派市民」と「ネット右翼」を知る4冊の本

季刊『言論空間』編集委員 武部 伸一

要点

1、 右派市民と極右は区別して考える必要がある

2、 右派市民の背景には「反権威・反主流派」意識がある 

3、 就職氷河期世代を含む40~60代男性がネット上の右派言論を主導

 インターネットとスマホが普及した2000年代以降、ネット空間では「右派」「右翼」的な人々の言論が増えている。現実政治の場では参政党、日本保守党などの新興右派政党が誕生し、一部の人々から強い支持を得ている。

右派市民は21%、極右市民は0.2%

 では、これらの人々は実際どのような人たちなのか。それを理解し考えるため4冊の本を読んだ。

『「右派市民」と日本政治 愛国・排外・反リベラルの論理』
 松谷満 朝日新書 2026年2月刊


 著者は中京大学現代社会学部教授。自身が行った2017年12月の1万1千人政治意識調査アンケートを分析し、「右派市民」の実像を明らかにしている。

 先ず「右派」とは何かとの問いかけから、著者はそれらの人々を便宜的に「愛国主義」「伝統主義」「排外主義」「反左主義」の4類型に分類。それぞれの質問項目について賛同・共感の度合いを0~10段階で示し、アンケート回答者全体の政治意識を分析している。

 分析では、上記4タイプのうちどれか一つでも強く当てはまる回答者は21%、それらの人々を「右派市民」と名付ける。逆に言えば79%の人は右派市民ではない。そして4タイプすべてに当てはまる回答者は0.2%。著者はそのような人々を「極右」としている。つまり日本社会の中で右派市民は21%、極右市民は0.2%存在することになる。これを多いとみるか、まだそれほど多くは無いとみるか、それを考えることが必要なのだろう。

「権威嫌い、主流派嫌い」

 では、一人ひとりの右派市民とはどのような人なのだろう。

『ネット右翼になった父』
 鈴木大介 講談社現代新書 2023年1月刊

 著者は疎遠になっていた父親が病に伏したとの知らせを受け、久しぶりに実家に帰る。そこで見たのは、本棚に並ぶ右翼雑誌、そしてベッドで排外主義的なネット動画を見続け、差別ワードを口にする父の姿。驚愕した著者が知る父は、気難しい人ではあったが損保会社を実直に勤め上げ、定年後には地域ボランティアにも積極的に参加する常識ある人であったはず。

 父親の死後、著者は戦中に生まれた父の子ども時代、学生時代、会社員としての人生を辿り直す。結論として著者は、父親はフルスペックのネット右翼ではなかったと判断するのだが、上記『「右派市民」と日本政治』の分類定義によれば、充分な右派市民と言ってよいだろう。

 本書の著者が挙げている父親の性格に「権威嫌い、主流派嫌い」がある。そして父親の学生・青年時代には「左翼」こそ大きな権威であり、ゆえに生涯、朝日新聞と共産党が嫌いだったのだと。確かにこのような倒錯した感覚を持ち続ける人は今もいるように思う。

『「”右翼”雑誌」の舞台裏』
 梶原麻衣子 星海社新書 2024年11月刊

 いつ頃からか書店の総合雑誌コーナーでは、『世界』『中央公論』の隣に『WiLL』『Hanada』などの右翼雑誌が並ぶようになった。平台に積む書店も多く、それなりに売れているようである。

 では誰が読んでいるのか?それを知りたく手に取ったのだが、本書のテーマは「誰が作っているのか?」であった。両誌を創刊したのはいずれも花田紀凱(はなだかずよし)元週刊文春編集長。

 彼はいかなる意図でこれらの雑誌を生み出したのか。かつて花田の下で『WiLL』『Hanada』の編集に携わった筆者が描く体験記。筆者によれば花田のポリシーは「政治思想云々の前に」「面白く、売れる」雑誌を作ること。であれば右翼的テーマが、活字文化に親しんできた高齢読者層に「面白く」受けたということだ。売れる編集の柱が「朝日新聞批判」であったことは、上記の「ネット右翼になった父」の人物像と通じるものがある。

『陰謀論と排外主義~分断社会を読み解く7つの視点~』
 古谷経衡 他6名 扶桑社新書2025年12月刊

 2000年代以降、右派言論の先端はネット上で陰謀論・排外主義と融合し街頭から地方自治体選挙へ国政選挙へと進出している。それらの陰謀論者と排外主義者は大小のグループに分かれ、活発な活動を続けている。

 本書はインターネット上また街頭で右派・右翼ウオッチを続けるライター7名が、陰謀論者・排外主義者の実名、実際に活動する団体名を挙げながら、彼らが「反ワクチン」「反ディープステート・トランプ支持」「反財務省」「反移民」など雑多な論点でネットから実社会に登場、離合集散しながら参政党を結成し国政選挙で躍進するまでを描く。

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ネット上での言論をリードする就職氷河期世代の男性

 『「右派市民」と日本政治』では、右派市民はすべてのタイプに男性が多い傾向があるが、社会階層、年齢層に大きな偏りはないとされる。

 一方、この20年間インターネットで右翼的投稿を読み続けた私の実感からすると、ネット上で差別排外的、反リベラル左派的書き込みを頻繁に行っている人物は、ほぼ40代から60代の男性であるように感じる。飲食業などの自営業、またフリーランスでの働き方をしている人々も多いようにも感じる。彼らいわゆる就職氷河期世代の男性こそが、右派市民の中でもネット上での言論を活発にリードする層ではないか。これは私の仮説である。

 いずれにせよ、右派市民が日本の有権者の20%を占めるならば2000万人。彼らは間違いなく我々の隣人である。対話の回路はどう構想できるだろう。

*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より

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