<特集 憲政の回復と立憲的改憲論>自民党・自衛隊明記9条案はどこまで行くのか

■国民投票で否決されたらどうなるか
■国会は直ちに安保法制の廃止立法制定へ

古川 純(専修大学名誉教授) 

はじめに

 自民党憲法改正推進本部(以下、改憲本部と略;細田博之本部長)は昨2017年12月20日「憲法改正に関する論点とりまとめ」を発表し、「国民に問うにふさわしいと判断されたテーマ」として、①安全保障にかかわる「自衛隊」、②統治機構に関する「緊急事態」、③一票の格差と地域の民意表明が問われる「合区解消・地方公共団体」、④国家百年の計たる「教育充実」の4項目をあげた。各テーマにおける議論の状況と方向性を4項目ごとにまとめているが、本稿は安倍首相(総裁)が最も力を入れて今年中の改憲発議を促してきた①の「自衛隊」に重点を置いて最近の改憲本部の動向を追い、果たして安倍・自衛隊明記9条改憲案はどのような条文案の下にどこまで行くのか、また正式に発議されて国民投票にかけられ・否決された時には現行安保・防衛法制はどういう状態になるのか、法的政治的論点を考えてみたい。TV各社の世論調査は昨年5月安倍首相が打ち出した9条1項・2項維持の「自衛隊明記」9条改正問題について、次のようにデータを報じている(毎日2018・1・24の「自衛隊明記に関する主な世論調査の結果」)。回答の選択肢の表現は少しずつ違うが、大体同じと考えて比較する。
 *毎日(1/20、21調査):9条1項・2項はそのままにして自衛隊明記〈31%〉、9条2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける〈12%〉、憲法に自衛隊明記は必要ない〈21%〉
 *読売(2/12~14調査):9条2項を維持して自衛隊の根拠規定を追加する〈32%〉、9条2項を削除して自衛隊の目的・性格を明確にする〈34%〉、自衛隊を憲法に明記する必要はない〈22%〉
 *NHK(2/6~8調査):戦力の不保持などを定めた9条2項は維持して自衛隊を追記する〈16%〉、9条2項を削除して自衛隊の目的などを明確にする〈30%〉、9条を変える必要はない〈38%〉NHK調査では9条2項削除・自衛隊の目的など明確にする改正意見が30%と(自衛隊明記改憲の16%よりも)2倍近い高い数字を出しており、自民改憲本部をたいへん困惑させているという。
 *ANN世論調査(2/24、25調査;TV朝日2/26「ワイド!スクランブル」報道):9条改正はしない〈22%〉、9条を変更せず解釈で対応する〈21%〉、9条1・2項を残して自衛隊の条文を追加する〈31%〉、9条2項を削除する〈14%〉;なおANN調査では、改憲の発議と国民投票に賛成〈56%〉、反対〈31%〉、わからない〈13%〉というデータがあり、この世論調査では過半数に当たる56%が改憲発議・国民投票に移ることに賛成している。
 現段階で注目すべきなのは、ANN調査の改憲発議・国民投票賛成56%であろう。
 現在の国会両院の与党(自民・公明)3分の2議席占有を前提に(参院選は来年7月までない、また衆院解散がなく院の構成が変わらないとして)考えると、両院憲法審査会における野党を取り込む「合意」を最終的に断念して今年中の強行採決・両院本会議発議強行採決の可能性がある以上、(改憲発議が延期・崩壊する可能性は脇において)改正権の最終的担い手である主権者・国民投票によって9条改憲発議案を迎え撃つ=否決する全国津々浦々に行き届いた、いかなる9条改憲案をも「熟議」によって否決する広範な改憲阻止・市民運動戦線を準備して迎え撃つ態勢が必要だと私は考える。

自衛隊明記9条改憲案の諸案を検討する

 論点とりまとめ②「緊急事態」の意見集約は先送りになった(日経、18・1・31夕刊)。
 ③「合区解消・地方公共団体」の改憲条文素案、④「教育無償化」の条文素案が2月21日の全体会合で大筋了承され問題が多いが本稿では省略する。結局、改憲条文素案の焦点は①「自衛隊」明記・追加規定の問題に絞られてきた。
 2012年自民党憲法改正草案は、9条2項を削除して新2項「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない」、さらに9条の2を新設し1項で「内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する」などと定めた。9条2項(交戦権の否認規定あり)を削除し2012年草案の規定に戻れという主張が石破茂案である。この2項削除案に対して安倍首相は批判・けん制して「私の案では2項の制限がかかり、いままでと同じだ」と答弁(毎日18・1・30)、また高村副総裁や細田本部長は「2項削除案では国民投票だけでなく国会発議さえ難しい」とみているとされる(毎日18・2・7)。姑息な政治判断のみできちんとした筋のない改憲案策定であることがはっきりしてきた。
 以下では「特集ワイド 9条2項+『自衛隊』=交戦OKか」(毎日1・10・27)が紹介する9条3項に自衛隊規定を付加する場合の3案(元山健・龍谷大学名誉教授ら憲法学者が予想する文言案)を参考に、それ以後自民党内から出された自衛権追記案などを踏まえ、また阪田雅裕・元内閣法制局長官の自衛隊明記私案を加えて検討したいと思う。
 A案(「自衛隊」明記案―1)3項「前項の規定は、自衛隊の存在を妨げるものと解釈してはならない。」
 B案(「自衛隊」明記案―2)3項「前項の規定は、我が国を防衛するための必要最低限度の実力組織としての自衛隊を設けることを妨げるものと解釈してはならない。」
 C案(首相の最高指揮官とともに自衛隊明記案)3項「前項の規定は、国際法に基づき、我が国の独立と平和並びに国及び国民の安全を確保するために、内閣総理大臣を最高指揮官とする自衛隊の設置を妨げるものではない。」
 D案(「自衛権」明記案)3項「前2項の規定は、自衛権の発動を妨げない。」さらに安保関連法で認められた限度の集団的自衛権に歯止めがかからなくなるとの意見に対して、「我が国の存立や国民の生命、財産を守る」を加える案を検討。(自民党の山田宏参院議員、長尾敬衆院議員、青山繁晴衆院議員ら、毎日18・1・24、2・4)
 E案(改憲推進本部の新案、シビリアン・コントロール(文民統制)を明確にするため総理大臣の自衛隊最高指揮権を明記し自衛隊を国会統制下に置くことを明示する案)9条の2を設け1項に自衛隊を定義(9条2項が保持を禁じる「陸海空軍その他の戦力」に該当しないことを明確にするため「必要最小限度の実力組織としての自衛隊」と明記)、2項に文民統制を盛り込む案(内閣の首長たる総理大臣が自衛隊の「最高の指揮監督権を有する」と明記、また国会との関係では「国会の統制に服する」、自衛隊が武力行使をする場合などに「国会の承認を得るものとする」と規定)(毎日18・2・25、改憲本部は自衛隊明記改憲条文案を党所属国会議員に公募したところ100件を超える提案が集まった、これらを精査して3月25日の党大会までに党改憲案の策定を目指す)
 F案(阪田雅裕・元内閣法制局長官案)9条2項の戦力不保持規定を残したまま自衛隊を明記することは「自衛隊が戦力に当たらない理由を憲法の条文として示す作業」(集団的自衛権行使を含め海外での武力行使ができない)だったが、安保法制によって「現在の自衛隊は、わが国が直接武力攻撃を受けていない『存立危機事態』〔注〕においても、集団的自衛権を行使して武力行使ができることになっている」から作業を見直すことになる。「自衛のための実力組織」では「自衛の意味内容があいまいで、一義的でない点で、憲法規範として致命的な欠陥がある」。阪田案:3項「前項の規定は、自衛のための必要最小限度の実力組織の保持を妨げるものではない。」4項「前項の実力組織は、国が武力による攻撃を受けたときに、これを排除するために必要な最小限度のものに限り、武力行使をすることができる。」5項「前項の規定にかかわらず、第3項の実力組織は、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされる場合には、その事態の速やかな終結を図るために必要な最小限度の武力行使をすることができる。」以上は「真に現在の自衛隊」を憲法に明記するためには欠かせない規定である」とする。(阪田「自衛隊の明記は可能か」『世界』2018・1 72~78頁、阪田「自衛隊を明記するとは 名称書くだけでは白紙委任の恐れ 私案で問いかける」、朝日18・2・7)
〔注〕「存立危機事態」:存立危機事態等法2条4号「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義。

国民投票で改憲案否決後はどうなるのか

 「自衛隊明記の改憲案が国民投票で否決されたら、自衛隊の位置付けはかえって不安定になるのではないか」という野党質問に対して安倍首相は、「たとえ否決されても(自衛隊の合憲性は)変わらない」と答弁した(毎日18・2・7)。果たして自衛隊の合憲性は変わらないとだけ言っていいのか。
 A案~F案までの諸案が改憲発議後に国民投票に付された場合、憲法96条1項所定の国民投票で「その過半数の賛成」を得られなかったときに、つまり否決されたときに、その時点での安保・防衛法制は法的・政治的にどうなるのか。「熟議」を踏まえた国民投票で自衛隊明記・9条改憲案を迎え撃つためにはしっかり考えておかなければならない。
 法論理的には(法学的には)、9条1項・2項はその原型の規範力が確認されるとともに、現行の安保・防衛法制(防衛二法、安保関連法制)には投票結果の法的効果は及ばないから自衛隊は法的には「現在のまま」である(政府は「合憲」と言い、私たちは現9条の厳格解釈で「違憲」と言い続ける)。しかし政治的には国民投票で表明された国民意思(民意)は特別の評価・判断を得なければならない。まず改憲を主導した与党(自民・公明)が政治責任を問われ政権を去る(総辞職)ことになるのは言うまでもない。代わって民意を基盤に新たに政治責任を負わなければならないのは9条改憲諸案に反対した野党である。国会における自衛隊法制・安保関連法制の根本的な見直し=法改正の政治課題に直面することになる。その場合、改憲条文によって見直し対応は異なる。
 A案・B案・C案・E案の否決は、端的に言って憲法に軍事組織を置くことと「軍事権」(国防高権、Wehrhoheit)の新設を拒否する政治判断を意味する。それは現行憲法が9条を頂点として本来的に「軍事権」と軍事法体系を認めない(緊急事態法制を認めない)構造をもっていることの選択を意味するから、自衛隊はあくまでも法律上の存在であり、厳格解釈によって内閣の行政権の中にoperation(行動)とmanagement(管理)を抑え込む必要がある。それをはみ出すoperationは法改正で排除しなければならない。
 D案の否決は阪田氏の指摘する「自衛権」のあいまいさを憲法から排除する意味を持ち、国際法上・国連憲章上の自衛権をひそかに憲法内に持ち込んで軍事組織の根拠にすることを否定する。
 C案・E案条文否決では、総理大臣の最高指揮監督権(自衛隊法7条)は憲法上の特別な権限(旧憲法上の天皇の「統帥権」)の法的意味を持たず、内閣の行政権の一部でしかなくなる。
 F案条文の3項・4項の否決は、A案・B案・C案・E案の否決について指摘したところと同様である。5項の否決は、実は5項条文の文言が「存立危機事態」等法の文言に相当するから、実質的には安保法制の中心制度の国民投票による否定に相当するであろう。したがって政治的には国会はこの場合、直ちに安保法制の廃止立法制定に取り組まなければならないのである。もっとも姑息な改憲発議者はそういうリスクを冒してまで改憲案をF案条文に組み替えることはしないであろうが。

(現代の理論2018年春号)

*アイキャッチ写真は衆議院ホームページより