沖縄の助産婦、海をあるく(3)『1%の風景』
トルネイドまーりー
2023年11月14日、沖縄タイムスの一面に『呼気で乳がん検診』との見出しを見た。石垣市出身の医師が息を吹きかけるだけの乳がん検査キットの実用化に取り組んでいるとのニュースだ。放射線を使うマンモグラフィーは被爆と痛みを伴い、検診者の負担が重い。そのせいか日本の乳がん検診率は先進国で最低の41%。この検査キットの普及で検診率を向上させたいと、医師は語る。日本人女性のがん罹患数は1位乳房、以下大腸、肺、胃、子宮と続く。死亡数は1位大腸、以下肺、膵臓、乳房、胃である。乳がんはステージゼロで5年生存率、10年生存率ともに100%。しかしステージⅣになると、5年生存率は38・7%、10年生存率は 19・4%に下がる。
医療技術の進歩を否定するつもりはない。救える命が増えることは歓迎だ。しかし、この検査キットはイスラエル企業の呼気分析技術を活用し、イスラエルの技術がリードしている開発競争が激しい分野。世界シェアを視野に、アジア中心に13カ国の現地企業と商談を進めているという。なんかキナ臭い。女性を喰いものにした、新手の商売でなければよいが。
タレントの山田邦子さんのように自分で触診し、乳がんを発見した人は少なくない。乳がんは自己検診できる。その重要性がもっと強調されていい。ある識者は、「スクリーニング検査は感度と特異度が両方揃い、しかも費用が安いという条件を満たさないと、百害あって一利なし」と述べる。乳製品や動物性たんぱく質のとりすぎ、農薬や化学物質、食品添加物の影響など、乳がんが増えている原因分析と共に、予防のための栄養指導や健康教育を普及させ、がんにならないようセルフケアを向上させたい。しかし、金儲けにならないから普及しないのか?
いま東京を皮切りに全国で、映画『1%の風景』が上映の予定だ。99%の出産が病院やクリニックで行われる日本で、助産所や自宅での出産を選択した4 人の女性と、彼女たちをサポートする助産師のドキュメンタリーだ。私は、この映画に出演する神谷整子さんの助産院で研修を受けたことがある。丁寧で切れ目のないケア、自宅での妊婦健診の様子を間近で見せていただいた。また映画を監督した、吉田夕日さんの出産体験を伺った。
吉田さんは1人目を病院で出産。それも良い体験だった。だが、2人目を妊娠したとき、友人が自宅で出産したと聞き、「なぜ、自宅で産むの?」と尋ねると、「なぜ、病院で産むの?」と逆に問われた。それで病院以外での出産に興味をもち助産所を見学。そこで出産をしたという。助産所での日々は、それまでの人生とは別の景色の中にいるよう。1日の時間の流れも、口にいれる食事の温かさも、耳にする音も匂いも、なにもかもが特別だったと語る。それまで知る機会のなかった助産師の世界を知りたいと、生後 6カ月の子を背負い、撮影を始めたのだと。
助産所は、助産師が責任者として管理する医療法で定められた施設。医師は常駐せず、麻酔や薬剤等の医療行為ができない。分娩の取り扱いは、嘱託医や嘱託医療機関と提携する。私の働くクリニックでは医師の待機のもと、ローリスクの正常分娩は助産師だけで介助する院内助産ができる。不必要な医療介入がない、アットホームな雰囲気で、女性が自由に動きまわれ、布団の上で好きな体位で産める。そのためか、分娩台で介助していた時より出産時の会陰裂傷は少ない。また、ずっと赤ちゃんと一緒で、引き離されることがない。
肌と肌を接触することで、赤ちゃんは母の正常な細菌に触れ、また乳首を吸うことで、赤ちゃんのもつ細菌に対する抗体を含んだ母乳が分泌され、赤ちゃんの抵抗力が高まる。臍の緒の拍動が止まるまで臍の緒を切らない。すぐに切らないことで胎盤から赤ちゃんへ、赤血球、免疫細胞、幹細胞などが送られ、感染抑制や酸素レベルの上昇に役立っている。ローリスクのお産にとって、助産所や自宅でのお産は良いことずくめだ。女性と家族の満足度も高い。だが日本では選択肢が狭められている。1990 年代、関東圏では助産所・自宅分娩あわせて2%台だった時もあった。現在は医療介入が増え、東京で麻酔を使う無痛分娩は 30%だと聞く。助産所や自宅での出産は1%を切り0・8%位だ。様々な理由で、お産を扱うのをやめる助産所が増えている。まだゼロではない。だが10年もしたらゼロになってしまうかもしれない。
映画を見て考えよう。命を産み、育てる女性のそばに信頼できる誰かがいる、という風景を失なってよいのか!? 病院やクリニックで産むハイリスクで医療が必要な女性にこそ、この『1%の風景』が必要なのではないだろうか?
(現代の理論 2024冬号)
*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より


