同性カップルの「婚姻の自由」同性婚を認めた札幌高裁違憲判決の衝撃

内藤 光博(専修大学教授・憲法学)

「婚姻」の概念を変えた画期的な札幌高裁判決

 日本国憲法24条は、「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として成立し、相互の協力により、維持されなければならない」(1項)、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」(2項)と規定し、異性婚のみを想定しているかに見えることから、民法および戸籍法は、異性間の婚姻のみを法律上の婚姻としており、同性婚を認めていない。
 これに対し、2019年以降、法律上の婚姻を望む同性カップルの方々が、同性婚を認めていない民法および戸籍法の規定は、憲法13条の「個人の尊重」および「幸福追求権」を基礎とする「人格権」、14条の法の下の平等、そして24条の「婚姻の自由」に反し違憲であり、国が、民法と戸籍法を改正して同性婚を認めるなど、必要な立法措置を講じてこなかったことは国家賠償法上違法であるとして、国に対し慰謝料を請求する、いわゆる「結婚の自由をすべての人に訴訟」(同性婚訴訟)が、全国5地裁(東京、大阪、名古屋、札幌、福岡)で提起された
 この同性婚訴訟では、2024年までに、五つの地方裁判所のすべてにおいて、六つの判決(東京地裁で2判決)が下され、同性婚を認めていない民法と戸籍法の規定は憲法24条および14条1項に反するとする五つの違憲あるいは違憲状態判決と、一つの合憲判決が出されている。
 こうした中にあって、2024年3月14日、札幌高等裁判所は、高裁として初めて判決を下し、同性婚を認めない民法と戸籍法は違憲であるとする点では、地裁の違憲および違憲状態判決とは結論を同じくするものの、憲法24条1項が規定する「婚姻の自由」に同性婚も含まれるとする新たな見解を示して、大きな注目を集めている。
 こうしたアプローチから違憲判決を導き出した札幌高裁判決は、異性婚を中心に考えられてきた、これまでの憲法上の「婚姻」を根本的に覆し、同性婚を、異性婚と等しく憲法24条1項で保障される「婚姻」と認めるものであり、今後の同性婚訴訟の方向性および同性婚の法制化を求める立法運動に大きなインパクトをもつ、画期的な判決と評価できる。

北海道新聞WEB版(2024年03月15日 00時30分、https://www.47news.jp/10653161.html)より引用

 個人の尊重および人格権と「婚姻の自由」

 まず第一に、札幌高裁は、同性婚訴訟で争点となっている、憲法13条の規定する個人の尊重および人格権と性的指向および同性間の婚姻の自由の関係性について、次のように判示した。
(1)「性的指向は生来備わる性向であり、社会的には異性愛者と同性愛者それぞれの取扱いを変える本質的な理由がないといえ、同時に、その個人からみれば、人が個人として尊重される基礎であり、その個人の人格の象徴であって、人格権の一内容を構成し得るものというべきである」
(2)「性的指向、さらには同性間の婚姻の自由が人格権の一内容を構成し得るとしても、同性愛者が婚姻という制度の適用を受けられるかどうかについて検討すると、婚姻の制度は、法制度の一部として法律がその具体的な内容を規律しているものであるから、性的指向及び同性間の婚姻の自由に係る人格権の内容は、憲法上一義的に捉えられるべきものではなく、憲法の趣旨を踏まえつつ定められている法制度との関係で初めて具体的に捉えられるものであると解すべきである」
(3)「憲法13条のみならず、憲法24条、さらには各種の法令、社会の状況等を踏まえて検討することが相当であり、このような観点からすると、憲法13条が人格権として性的指向及び同性間の婚姻の自由を保障しているものということは直ちにできず、本件規定(民法と戸籍法の規定)が憲法13条に違反すると認めることはできない」
(4)「性的指向及び同性間の婚姻の自由は、憲法上の権利として保障される人格権の一内容を構成し得る重要な法的利益として、…本件規定が同性婚を許していないことが憲法24条の定める立法裁量の範囲を超えるものであるか否かの検討に当たって考慮すべき事項であると考えられる」
 思うに、判決が、性的指向と同性間の「同性間の婚姻の自由」は、憲法13条の人格権の一内容であるとするものの、その内容は一義的に捉えられるものではなく、憲法の趣旨を踏まえつつ定められている法制度との関係で初めて具体的に捉えられるとした点については、大きな疑問が残る。
 性的指向は、自らの意思に関わらず決定される個人の性質であり、個々人に内在する性的本質であると考えられる。したがって、性的指向は「婚姻」と密接不可分の関係にあり、異性婚、同性婚、あるいは婚姻しないことも含めて、憲法13条の人格権ないし幸福追求権の一つとして「婚姻の自由」は保障されるべきであると考える。 

 「婚姻」とは「人と人との間の自由な結びつき」

 次に、札幌高裁判決は、憲法13条の個人の尊重および人格権を基礎として、憲法24条の解釈を行った。判決では、憲法24条1項が規定する「婚姻は両性の合意のみに基いて成立し…」との文言について、「人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻を定める趣旨を含み、両性つまり異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても異性間の場合と同じ程度に保障していると考えることが相当である」とする、これまでにない独自の解釈を示した。
 同性婚訴訟の六つの地裁判決では、「憲法24条が『両性』など男女を想起させる文言を用いていることにも照らせば,同条は異性婚について定めたものであり,同性婚について定めるものではないと解するのが相当」(札幌地裁判決)、「憲法24 条の文理や制定経緯等に照らすと、同条1項における「婚姻」は、異性間の婚姻のみを指し、同性間の婚姻を含むものではないと認めるのが相当」(大阪地裁判決)、「憲法制定当時において、同条1項の趣旨に照らして、同性間に対して法律婚制度を及ぼすことが要請されていたとは解し難い」(名古屋地裁判決)、「同性婚を憲法24条1項の『婚姻』に含むと解釈することは少なくとも現時点においては困難」(福岡地裁)などとして、同性間の「婚姻の自由」は、憲法24条1項により保障されないとしてきた。
 憲法学説では、憲法24条1項については、①「両性」という文言から、文字通り「男女の合意」と解して、同性婚を含まないとする見解と、②24条1項の立法趣旨は、明治民法の家制度に基づく婚姻制度の否定にあり、同性間の婚姻についても、法律で認めることは憲法上許容されるという見解(許容説)が対立しているが、②の許容説が多数説であるように思われる。
 こうした中にあって、札幌高裁判決が、同性間の「婚姻の自由」を、異性間の「婚姻の自由」と等しく、憲法24条1項により保障されると宣言したことは、今後の裁判のみならず、憲法理論にも大きなインパクトを与えることになるだろう。
 札幌高裁は、「婚姻」とは「人と人との間の自由な結びつき」であるとの見解を導くにあたり、次のような論理を展開している。
 第一に、憲法解釈について、「法令の解釈をする場合には、文言や表現のみでなく、その目的とするところを踏まえて解釈することは一般的に行われており」、「仮に立法当時に想定されていなかったとしても、社会の状況の変化に伴い、やはり立法の目的とするところに合わせ、改めて社会生活に適する解釈をすることも行われている。したがって、憲法24条についても、その文言のみに捉われる理由はなく、個人の尊重がより明確に認識されるようになったとの背景のもとで解釈することが相当である」としている。つまり、条文の文言だけではなく、立法目的を踏まえたうえで、社会状況の変化に即して、社会生活に適する解釈を行うことが重要だとするのである。
 第二に、こうした憲法解釈の手法に基づき、24条1項の解釈を行い、同条項にいう「婚姻」には「同性婚」も含まれるとする。そして、同性婚を認めていない民法および戸籍法の規定は、24条1項に反すると結論づけた。その論理は以下の通りである。
(1)「憲法24条1項は、婚姻するかどうかいつ誰と婚姻するかについては、当事者間の自由かつ平等な意思決定に委ねられるべきであるという趣旨を明らかにしたものである」
(2)性的指向及び同性間の婚姻の自由は、個人の尊重及びこれに係る重要な法的利益であるのだから、憲法24条1項は、人と人との間の自由な結びつきとしての婚姻をも定める趣旨を含み、両性つまり異性間の婚姻のみならず、同性間の婚姻についても、異性間の場合と同じ程度に保障していると考えることが相当である」
(3)「性的指向及び同性間の婚姻の自由は、憲法13条によっても、人格権と同様に、重要な法的利益と解される。そして、憲法24条は、憲法13条を受けて定められており、同条1項が同性間の婚姻を文言上は直接的に保障していないとしても、同条2項が定めるとおり、個人の尊厳が家族を単位とする制度的な保障によって社会生活上実現可能であることを踏まえると、同条1項は人の人との間の婚姻の自由を定めたものであって、同性間の婚姻についても、異性間の婚姻と同程度に保障する趣旨であるというべきである」
(4)「(民法および戸籍法の規定は)同性間の婚姻を許しておらず、同性愛者は婚姻による社会生活上の制度の保障を受けられない。このことにより、社会生活上の不利益を受け、その程度も著しいということだけでなく、アイデンティティの喪失感を抱いたり、自身の存在の意義を感じることができなくなったり、個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなど、個人の尊厳を成す人格が損なわれる事態となってしまっている」
(5)「同性間の婚姻について社会的な法制度を定めた場合の不利益・弊害を検討すると、社会的な影響を含め、社会上の不利益・弊害が生じることがうかがえない」
(6)(地方自治体の)パートナーシップ認定制度により、同性婚ができないことによる不利益が解消されているということはできない。
(7)以上の点を総合的に考慮すると、民法と戸籍法の規定は「異性間の婚姻のみを定め、同性間の婚姻を許さず、これに代わる措置についても一切規定していないことから、個人の尊厳に立脚し、性的指向と同性間の婚姻の自由を保障するものと解される憲法24条の規定に照らして、合理性を欠く制度であり、少なくとも現時点においては、国会の立法裁量の範囲を超える状態に至っていると認めることが相当である」

 同性婚を認めることは憲法24条1項の要請

 憲法24条1項は「婚姻の自由」を保障したものであり、「婚姻」とは「人と人との間の自由な結びつき」とする札幌高裁の見解からは、異性間・同性間を問わず、すべての人に「婚姻の自由」を認めることは、憲法13条の個人の尊重の原理を基礎とする憲法24条1項が要請するものであるとの結論(要請説)が導かれるであろう。
 憲法24条1項の立法趣旨は、日本国憲法制定時の最大の課題のひとつであった、婚姻には親の同意を必要とする「家制度」を前提とする婚姻制度の否定と個人の尊厳に基づく「男女の合意」に基づく婚姻制度の新設にあったことは確かであり、「異性間の婚姻の自由」の保障に大きな力点があったと考えるべきである。しかしながら、性的指向の多様性が尊重される現在にあっては、個人の尊重を基調とする日本国憲法のもと、法律により同性婚を認めることは、憲法の要請するところであるといえるだろう。

 民法と戸籍法の速やかな改正を求める

 性的指向性は、自己決定の問題ではなく、各個人のうまれながらに有する性的性質であることから、個人の尊重の憲法原理のもと、法の下の平等による手厚い平等的取扱いが求められる。現在の日本における同性カップルの置かれた法的状況は、異性カップルに比べはるかに不利な状況に置かれており、地方自治体で進められているパートナーシップ制度の導入には、大きな意義があるものの、法的婚姻が認められていない現状は、同性カップルが、異性カップルと同程度の法的保障を受ける家庭生活をおくれない状況をもたらしており、深刻な人権侵害状況を生じさせている。
 同性婚を憲法上の要請とみる札幌高裁の判決は、今後の同性婚訴訟と立法運動に大きなインパクトをもつであろう。早急に、札幌高裁の打ち出した憲法24条論をもとに「すべての人の間の婚姻の自由」を追究する憲法論を展開する必要があろう。
 個人の尊重と法の下の平等を基調とする日本国憲法のもと、同性カップルの人権保障を確立するためにも、同性婚は速やかに認められるべきである。国会には同性婚を法的婚姻と認める法改正を速やかに行うことを求める。

ないとう・みつひろ
専修大学法学部教授。平和主義、慰安婦などの戦後補償問題、表現の自由や生存権などの基本的人権、社会的連帯の憲法論(イタリア憲法)を研究中。「人間の尊厳に最高の価値を置き、平和主義を基礎とする、自由で平等な市民社会」を追求している。

(現代の理論2024年夏号)