中国による資源開発と環境政策~中国だけの問題なのか(4)

西原 智昭

 今後も環境顧問として是非同行してほしいとの依頼まで受けるほどSINOPEC(1)とは信頼関係を築くことができた。事業終了後の分析でガボン・ロアンゴ国立公園の地下に石油資源は十分になかったとのことで、国立公園の存続が確保されまずは一安心であった。
 昨今中国のアフリカ進出には目を見張るものがある。主に資源開発が目的だ。2008年の胡錦濤主席のアフリカ訪問を一つの皮切りに、中国は国家戦略として鉱物資源確保に乗り出している。アフリカの指導者からは「欧米諸国の首脳が来ると、国連の改革とか人権問題などうるさいことを言うが中国は経済だけだ」と、中国は評判になったらしい。中国は、高い技術力で道路や橋、空港、建築物、ダムなど安価なインフラ整備を資源の見返りとしている。
 こうした「資源収奪戦略」は先進国もこれまで大々的にやってきたことであり、事業によっては現在進行形で中国と大同小異といえる。資源開発に伴う環境・人権配慮を中国企業が確実にこなしているのは、ガボン・ロアンゴ国立公園での石油探索事業ですでに紹介した通りである(2)
。熱帯材を目的とした林業においても、昨今は中国企業は率先して環境・社会配慮型の国際認証(FSC認証3)を取得している。コンゴ共和国でも水力発電のためのダム建設中国事業者は、周辺地域の生物多様性保全目的で毎年潤沢な資金を提供した実績もある。むしろ、海外の資源に依存している日本は商社に託して資源を輸入しているが、こうした環境・社会配慮型のサプライチェーンを重視しているのかどうかは疑わしい。
 中国はアフリカだけでなく、鉱物資源の豊富な東南アジアや南米への進出も顕著である。とりわけ生産国が偏在しているレアメタル(希少金属)の確保には強気である。その上、中国国内でもレアメタルやレアアース(希土類)の産出量は少なくなく、海外から輸入された鉱物の精錬もほとんどは中国が握っている。安価な労働力を提供できるのと、国土が広く精錬時に排出される有毒物質などの廃棄場所に困らないためだ。中国が鉱物資源の輸出規制を始めたことは記憶に新しいが、ある意味中国に世界の鉱物資源が握られていると言っても過言ではない。
 新疆ウイグル地区や内モンゴル地区での人権問題の原因の一つはそこで得られる鉱物資源の確保および精錬のための安価な労働力の確保であろう。カーボンニュートラルに必須の太陽光パネルに不可欠なシリコンの大半は中国由来であり、その40%は新疆ウイグル地区産であると言われている。太陽光パネルのほぼ100%を中国に依存している日本は間接的に新疆ウイグル地区の人権問題に加担していることになる。
 軍事政権のミャンマーやタリバン政権のアフガニスタンに内政干渉をしない中国は、両国の豊富な地下資源を確保したいのと、「一帯一路」政策の一環として海へ通じる回廊に都合のいいミャンマーを保護し、新疆ウイグル地区と接するアフガニスタンを刺激したくないという思いも強いのだろう。尖閣諸島から台湾、東シナ海を確保したいのは、その海底に豊富にある天然ガスやレアメタル・レアアースの資源開発と無関係ではない。特にレアメタルやレアアースはハイテク機器や最先端兵器、最新鋭ロケットなどの製造に必要不可欠であり、それを支配することで世界の覇権を取れることを中国は重々承知しているからである。恐るべき世界戦略である。
 そうした中国に対抗すべく、「自由で開かれたインド太平洋構想(クワッド)」というのが米印豪日の間で調印された。これは先鋭化しかねない中国の資源戦略を囲い込む一環でもあるといえる。戦争を継続するために資源調達を確保すべく「大東亜共栄圏」を築きつつあった日本に、ABCD包囲網で日本が窮地に追いやられた歴史との類似性を感じる。途上国での資源開発、特に先進国資本主導でカーボンゼロを目指す目的で昨今加速度的に進行するレアメタル資源開発による環境破壊と先住民族への人権侵害などは、現在も進行中である。その点からも、資源開発に伴う環境破壊・生物多様性喪失や人権問題を中国のみ非難するような見方だけでは不適切だ。よりグローバルな視点、地球レベルの自然環境保全や人権保障を万国共通の課題として議論するべきであろう。

(1)China Petrochemical Corporation(中国石油化工集団公司)
(2)『現代の理論』2022冬・春・夏号を参照
(3)『現代の理論』2020夏・秋号および2021年冬号を参照
参考文献:谷口政次『教養としての資源問題~今、日本人が直視すべき現実』(2011年、東洋経済新聞社)ISBN978-4-492-76197-7

にしはら ともあき(国際野生生物保全協会自然環境保全研究員/星槎大学教授)

コンゴ共和国における水力発電のための中国企業によるダム建設現場(撮影 西原智昭)

(現代の理論2022秋号)