POLITICAL ECONOMY 第309号 高市「高圧経済」への警鐘
平田芳年(NPO現代の理論・社会フォーラム運営委員)
要点
1、高市政権は「高圧経済」を志向
2、高圧経済のねらいは、政府主導でマクロ経済に需要超過の状態を作り出すこと
3、インフレ助長のリスクがあるうえ、潜在成長率の引上効果は実証されていない。
4月の日本銀行審議委員交代人事で新委員として浅田統一郎氏(中央大学名誉教授)が就任した。7月1日には佐藤綾野氏(青山学院大学教授)の起用が決まっており、両氏はリフレ派(緩和的政策を重視)とみなされており、ロイター電は「人選は、高市早苗首相のマクロ経済運営の方向性を示す布石との見方が広がっている」と伝えている。これまでは財務省・日銀が連携して候補者リストを作成するが、今回は官邸側が事務当局の調整を無視、「首相周辺で決め、財務省・日銀にはいっさい相談しなかった」(東洋経済オンライン)という。市場関係者からは「今回の人事は『高圧経済』を志向するメッセージとして受け止められる」(大塚崇広三菱UFJモルガン・スタンレー証券シニア債券ストラテジスト)との見方が広がっている。
「高圧経済という名の危険な実験」
『高圧経済』、一般に余り馴染みのない用語だが、高市政権が提唱する「責任ある積極財政」を理解する経済政策の特徴として、内外の市場関係者やメディアの間で『高圧経済』が注視され始めている。韓国の中央日報が4月27日の日本語版で「インフレ容認の『サナエノミクス』、高圧経済という名の危険な実験」との記事を掲載、「サナエノミクスの高圧経済は、プロメテウスの火のように代償を前提としている」と警鐘を鳴らしている。
高市首相の掲げる「責任ある積極財政」のどこが高圧経済なのか。2月の施政方針演説などから要旨を引用すると、「我が国の潜在成長率は主要先進国と比べて低迷している。圧倒的に足りないのは、資本投入量、すなわち国内投資です。その促進に徹底的なてこ入れをします。AI(人工知能)や量子コンピューティングなど、次世代の覇権を握る先端技術産業へ積極的に投資し、日本経済の『稼ぐ力』を底上げする戦略」と説明する。こうした戦略の下で、新型コロナ禍以降で最大の25年度補正予算(総額18兆3,034億円)を決定、26年度予算も122兆3,092億円と過去最大規模を積み増した。
狙いは政府主導でマクロ経済に需要超過の状態を作り出し、金融緩和や財政刺激を継続することで経済活動を活発化させることを意図している。多少のインフレや労働ひっ迫が起きても市場に圧力をかけ続けることで成長経済を演出する手法だ。しかし一方で、インフレの加速を助長し、政府債務の増大、長期金利の上昇、投資の失敗、民間経済の失速など負の側面を軽視する弊害を生むと指摘されている。
中央日報の記事では「金融緩和は未来の消費を先取りし、拡張財政は将来の所得を前借りする効果がある。支出の時期を変えたからといって、成長まで付いてくるという保証はない。その上、インフレ下では極めて危険な逆走となる」と高圧経済政策のマイナス点を強調。そのうえで、「現在、世界的に高圧経済を政策課題として真剣に扱っている国は、日本がほぼ唯一といえる。米国や欧州では、インフレの影響で議論の対象外へと追いやられている」と指摘する。
高圧経済は完全に検証されていない
「数々の研究にもかかわらず、高圧経済は完全に検証された状態ではない。潜在成長率を高めるという経路は十分に解明されていない。経済の圧力を測定する計器板も不正確だ」と政策としての完成度が低いことを強調したうえで、「失われた30年」を経験し、デフレ経済からの脱却に苦労してきた日本政府の立場に理解を示し、「『未検証の新薬をあえて飲もうとする切実な患者の心境』とでも言えるだろうか」と論評している。中央日報の警鐘が空振りに終わることを願っている。
*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より
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