POLITICAL ECONOMY 第308号 「責任ある積極財政」の狙いは軍事産業拡充

横浜アクションリサーチ 金子 文夫

■ 要点 ■

1.「責任ある積極財政」の実態は、「危機管理・成長投資」を名目にした軍事・安全保障分野への大規模投資にある。

2.高市政権は、軍民両用分野へ官民融合投資を進め、「防衛と経済の好循環」を掲げている。

3.防衛予算拡大、武器輸出規制緩和、軍事産業への国家関与強化によって、「全般的軍事化」が進行している。

「責任ある」と「積極財政」は両立するのか

 高市政権の看板スローガン「責任ある積極財政」は何を狙っているのか。主眼の積極財政は拡張政策なので、財政健全化と両立しがたい。そこで「責任ある」という文言を加えて懸念払拭を図っている。

 「責任ある」の指標は何か。従来は基礎的財政収支の黒字化を掲げてきた。しかし、積極財政にとってこの指標は都合が悪いので、単年度でなく複数年度でみていくと曖昧な形にして後景に退け、代わりに政府債務残高の対GDP比を持ち出してきた。政府債務の低減に固執する必要はない、債務が増加しても一定の範囲内で管理できれば財政は持続可能という考えだ。

 確かに現下のインフレ経済では名目GDPは伸びていくので、債務が増えたとしても対GDP比は下降していく。ただし、いずれは長期金利の上昇を反映して対GDP比は増加に転じる可能性が高い。当面時間稼ぎをしながら財政拡張を図るという姑息な作戦だ。

「積極財政」の内容は何か。景気刺激のための政府支出拡大ではない。それをすればインフレが高進するのは明らかだ。そうではなく、供給力増大、潜在成長率引上げを目指して成長分野に投資を拡大することが狙いだ。予算の単年度原則にとらわれず別枠で管理し、中長期的に政府資金を投入して経済成長を実現し、税収を増やすという目論見だ。

 成長分野の中味としては、「危機管理・成長投資」と称して17分野が列挙されている。成長が見込まれる分野であれば民間投資が進むはずだが、見込みが厳しいから政府が代行するわけであって、成長につながる保証はない。高市政権が実行したいのは危機管理投資であり、それを粉飾するために成長投資という文言を付けているにすぎない。

危機管理投資の本丸は軍事産業の拡充

 危機管理・成長投資の内容は、2月20日の首相施政方針演説によれば、経済安全保障、エネルギー・資源安全保障、サイバーセキュリティなどの危機管理投資に重点が置かれ、それにAI、半導体などの成長投資が添えられるという配置だ。列挙されている17分野をみると、防衛産業を中核に軍民両用のAI・半導体、航空・宇宙、重要鉱物・部素材、造船などが配置されている。こうした分野に官民融合で投資を行い、安全保障と経済成長の二兎を追う算段だが、仮に成長が実現しなくとも、安全保障面の国力増強だけは実現したいとの意図表明だろう。政府の成長戦略会議では「防衛と経済の好循環」と称しているが、軍事産業で経済成長できるはずがないし、成長するとしても、それは健全な経済とはいえない。

 高市政権は防衛予算の拡大、安保3文書の前倒し改定を目指している。現在の「国家安全保障戦略」には、「防衛生産・技術基盤は、いわば防衛力そのもの」との記述がある。これを受けて、防衛生産基盤強化法が成立し、軍事産業への手厚い支援策が実行に移されている。  

 第一に、防衛予算を急増させ、各種ミサイル・無人機、車両・艦船・航空機等の多くを国内軍事企業に発注している。防衛予算はかつてGDP比1%だったが、2%へ、さらには3.5%へと膨脹する勢いだ。2025年に世界各国の軍事費が過去最大規模に増加するなか、上位10カ国の増加率を比較すると日本はドイツ、ウクライナに続く第3位を占めた。

 第二に、武器輸出規制の撤廃によって軍事企業に海外市場を保証する策を打ち出した。「専守防衛」原則のもと、武器輸出3原則は改定されつつも救難、輸送などいわゆる5類型に限定する歯止めがかけられてきたが、連立政権相手が公明党から維新に入れ替わるなかで殺傷兵器が制約なく輸出できる状況になった。OSA(政府安保能力強化支援)の拡充もこの流れに沿っている。

 第三に、軍事産業への国家関与の強化だ。各社の軍事事業部門を切り離して専業企業を設立する業界再編、国家が製造設備を所有し民間が運営するGOCO方式の導入、さらには国営軍事企業の設立等の構想が浮上している。これらは「戦時」を想定し、「継戦能力」の構築を目指すものだ。4月には防衛産業振興議員連盟(会長・浜田靖一自民党安保調査会長)が結成された。

軍事企業が成長し、全般的軍事化が進行

 この4月、三菱重工はオーストラリア海軍への「もがみ型護衛艦」輸出契約を完了した、日豪安保協力の一環であり、NEC、日立製作所、三菱電機などの技術も取り込まれている。三菱重工、川崎重工、IHIは軍事関連の受注残高を伸ばし、26年3月末には合計6兆2500円(25年3月末比15%増)に達した。NECの宇宙・防衛事業の営業利益は前年度の7割増、三菱電機は4割増となった。有力メーカーは、軍事部門の設備と人員の増強に動いており、影響は裾野の中小部品メーカーに波及している。

 注意すべきはデュアルユース(軍民両用)という用語の頻発であり、軍事アレルギーを緩和する作用がある。たとえば、富士通はNATO主要国にサイバーセキュリティなど軍民両用技術を売り込むべく、欧州2000人配置の計画を打ち出した。OKIの水中音響技術、スカパーの通信衛星技術など軍民両用の事業計画が目白押しだ。ウクライナ戦争、イラン戦争を通じて注目を集める軍用ドローンの国内生産は急務として、民生用ドローン製造企業は軍用ドローンの開発に舵を切っている。

 学術界でも、学術会議の反対にもかかわらず、軍民両用を名目に大学の防衛省研究助成金への応募は2025年度に125件へと急増した。9条改憲の先取り、全般的軍事化は着々と進行している。

*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より

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