2025年3月号 パクスアメリカーナの積極的解体

【  寄   稿  】「アフリカの森の民・ピグミー」招聘 (2)

【  寄   稿  】被団協スピーチに感じた違和感

【  新春の集い  】《特別講演》米大統領選挙後の世界と日本への影響

【  寄   稿  】アイヌ施策は民族の自立を促すのか

【  研究会報告  】《先住民族研究会》グローバルサウスとしての現代アフリカ

【  書   評  】高田一宏著『新自由主義と教育改革 大阪から問う』

パクスアメリカーナの積極的解体

(運営委員 佐々木希一)

 ウクライナやパレスチナなどいわゆる「紛争地域」において、国連(国際連合:United Nations)の存在感が急速に失われつつある。

 第二次世界大戦後、戦勝国となった連合軍(United Nations)諸国の主導で「外交的手段」による国際紛争の解決を図る「国際機関」として設立された国連は、1962年の総会議決を経て「平和維持活動」にも踏み出し、「武力紛争の抑止」と「紛争の仲介」に一定の役割を果たしてきた。

 もちろん、安全保障理事会(安保理)常任理事5カ国の対立が、紛争解決の抑止・仲介を機能不全に陥れているのは確かだし、「国際社会の平和と安定への貢献」が建前化している現実もある。だがトランプ政権の登場は、こうした国連の建前をも瞬く間に後景へと追いやり始めている。

 ウクライナ戦争の停戦をめぐるアメリカとロシアの二国間協議が、一方の当事者であるウクライナ政府を排除し、さらには「紛争仲介者」として多くの経験と実績をもつ国連を蚊帳の外に置き、かつて帝国主義列強諸国が当事者を無視して権益の分配を決めたと同様の取引(ディール)を紛争の解決手法として復活させつつあるのは、それを雄弁に物語る。

 ところでグティエレス国連事務総長は3月4日、アラブ連合の首脳会議で「ガザ復興の真の基盤は……尊厳、自己決定権そして安全です」と述べ、それが各種の再建用資材や物資以上に「必要な基盤である」と表明した。と同時にグティエレスは「復興のためには、国際社会は国際法の基盤に忠実でありつづけ、あらゆる形の民族浄化を拒否し、政治的な解決を模索すること」だと「すべての当事者に外交的解決」を求めたのだが、現実にはこの「外交的解決」に関する「共通認識の欠如」が、国連を無視するトランプ外交によって暴露されることになったのではなかろうか。

 つまりトランプがウクライナ戦争で見せつけた「外交的解決」は、第二次世界大戦後にアメリカの主導で形成された「国際法による法治」や「主権国家の平等」等々の「国際的規範」を公然と否定もしくは清算しているのであって、強いて言えばパクスアメリカーナ(アメリカによる平和)の積極的解体と言って過言ではあるまい。そうであれば、パクスアメリカーナを象徴する「アメリカ的な国際規範の体現者」たる国連は、トランプ政権にとっては「無用の長物」「役立たずの金食い虫」に他ならない。だからトランプは国連をはじめ国際機関への拠出金の減額や支払い停止を公言し、あるいは「特殊権益」と見なす国際機関からの脱退も躊躇しないのだ。

 だがトランプが夢想する「偉大なアメリカ」は、いまや単独では維持できない現実もある。アメリカは経済的にも文化的にもかつての輝きを失い、結果的として歴代大統領は「西欧諸国との同盟関係」への依存を深め、その財政的負担に苦慮しつづけてきたのではなかったか。

 トランプ大統領が、こうした歴史的変遷を逆転させることができるとは思えない。だが一時代の「国際的規範」が崩壊すれば、それに代わる新たな規範が登場するまでの間、世界は「各々の正義」によって分裂し、紛争と流血をともなう混沌の一時期を迎えることになる可能性は強い。