2024年5月号:衆院補選・自民党の全敗、史上最低の投票率
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【巻頭コラム】衆院補選・自民党の全敗、史上最低の投票率
4月28日に投開票された衆議院補欠選挙は、予想どおり2つの「不戦敗」を含めて自民党が3戦全敗、かたや立憲民主党が、いずれの選挙区でも2位以下を大きく引き離して「圧勝」した。
小選挙区制導入後は自民党が議席を独占してきた「保守王国」島根1区でも、立民・亀井氏の82,691票(得票率58.8%)に対し、自民・錦織氏は57,897票(同41.2%)と2万票以上の大差がついたのだが、この大差の敗北が、本来ならば「組織票が効果を発揮するはずの低投票率」という条件下で起きたことが、今回の補選の最も顕著な特徴である。
ちなみに島根1区の投票率は、3年前の総選挙より6ポイント低下した54.62%でかろうじて過半数を超えたが、東京15区は前回より13ポイント減って40.7%、長崎3区に至っては前回より16ポイント減の35.45%と、軒並み最低の投票率を更新した。だがそんな条件下でも、東京15区では立民の酒井と2位の無所属・須藤とは49,476票(28.98%)対29,669票(17.38%)と11ポイント以上の差があり、長崎3区では立民の山田と2位の維新の会の井上は53,381票(68.4%)対24,709票(31.6%)とダブルスコアである。立憲民主党「圧勝」の所以である。
もちろんこうした投票率の軒並みの低下は、「支持政党なし」の無党派層が50%に達したという最新のデータ(23年7月調査)を踏まえれば、無党派層のほとんどが補選の投票には行かなかったことを強く示唆しているのであって、「投票率が上がって野党候補が当選する」という、いわゆる政権交代へと通じる有権者の意識動向を云々できるような「圧勝」にはほど遠い。
だがそれでも注目すべきなのは、投票率が低ければ有利に作用するはずの組織票が、言い換えれば「自公連携の最大の強み」が、自民党候補の当選を担保できない事態が顕在化したことである。それは「自公政権の終わりの始まり」を示唆しているかもしれないからである。というのも、いわゆる「安倍一強」と呼ばれた自民党右派の国会多数派支配は、50%程度の低投票率なら各選挙区で過半数の得票で当選でき、結果として自公で6~7割の議席を確保できるという、「25%の支持率で3分の2の議席を占拠する」といった、小選挙区制ならではの手法で維持されてきたことは周知の事実だからである。
いずれにしても、「国賓待遇の訪米」などで内閣支持率が回復基調にあると気をよくした岸田が、国会の会期末に合わせて解散・総選挙を目論んでいるという「6月解散」説は、ほぼあり得なくなった。併せて「小池都知事の国政復帰」の可能性も、東京15区で推した乙武の惨敗で消滅したと言っていい。
次の政治的焦点は、9月30日に任期満了となる自民党総裁選挙をめぐる動向なのだが、現在の自民党内から、現状を打破するエネルギーが台頭するだろうか。替わりが見えないまま、無為無策の岸田体制がだらだら続く最悪の事態すら考えられるだろう。
それは野党、とりわけ補選で「圧勝」した立憲民主党が、この政治的混迷を突破する能力と構想力を試される局面なのかもしれない。なによりも円安など「アベノミクス」のツケで窮地に追い込まれつつある民衆の生活防衛のために、他の野党や市民運動ばかりではなく、自民党右派の支配を良しとせず雌伏してきた保守勢力との協調も視野に入れた、大胆な共闘あるいは連立政権を構想することが求められているように思うのだ。(運営委員 佐々木希一)