2024年3月号:自衛隊の靖国神社集団参拝
【寄稿】ヤジは表現の自由により保障される!
【寄稿】人口戦略会議の「人口ビジョン2100」を批判する
【寄稿】今夏、2人のピグミーを招へい
【寄稿】北方諸島にアイヌ民族が渡航して墓参 自治権への一歩に
【 新春の集い 】特別講演『イスラエルとハマス:なぜガザで戦うのか』
【書評】安立清史著『福祉の起原 起源と起原』
【巻頭コラム】自衛隊の靖国神社集団参拝
年明け早々の1月9日、陸上自衛隊の幹部が東京・九段の靖国神社に集団参拝するという事例が発覚した。防衛省の調査によると、陸自航空事故調査委員会の自衛官ら計22人が休暇をとり、私人として航空安全祈願のため参拝、13人が玉串料を私費で納め、9人は玉串料を納めなかったという。この参拝は昨年11月に実施計画が立てられ、関係者に案内状を送付、当日参拝の行動計画が事前に作られていた。茂木陽防衛省報道官は1月12日の記者会見で「行政文書として作成・保存されているのを確認した」ことを認めた。
この事実が報じられると、宗教施設への「部隊参拝」を禁じた防衛事務次官通達に違反するとの疑念が浮上、木原防衛大臣は「通達に違反しているかどうかを確認し、事実関係に基づき厳正に対処する」との考えを表明。防衛省の調査結果では、参加者が22人にとどまることなどから「おのおのの自由意思に基づき私人として行った私的参拝」と認定、部隊参拝や参加の強制を禁じる次官通達には抵触しないと判断した。ただ、靖国神社への移動に公用車を使ったのは不適切だったとして、小林幕僚副長ら3人を訓戒処分とした。
この参拝を巡って朝日と産経が1月16日付社説で対照的な主張を掲載、「陸自靖国参拝 旧軍との『断絶』どこへ」(朝日)、「靖国神社 陸自幹部の参拝は当然だ」(産経)。
朝日は社説冒頭で、「憲法が定める『政教分離』の原則に抵触するというだけではない。侵略戦争と植民地支配という戦前の『負の歴史』への反省を踏まえ、平和憲法の下で新たに組織された、自衛隊の原点が風化しているのではないかと疑わせる振る舞いではないか」と批判。一方の産経は「(次官通達違反の調査は)日本の戦没者(英霊)追悼をないがしろにするもので容認できない。陸自幹部の靖国神社参拝は公的、私的を問わず何の問題もなく、むしろ推奨されるべき話である」と全面擁護の姿勢。
この違いはどこからくるのか。朝日は「侵略戦争と植民地支配という戦前の『負の歴史』への反省」を強調し、産経は「日本を守るため尊い命をささげた戦没者、その戦没者(英霊)追悼をないがしろにするもの」と批判、先の大戦(太平洋戦争)を象徴する靖国神社とどのように向き合うのかという立場の違いに行き着く。
そもそも自衛隊の神社集団参拝はこれが初めてではない。今年1月10日、陸上自衛隊宮古島駐屯地の警備隊長ら隊員約20人が公用車などで地元の宮古神社を参拝(東京新聞)。2015年には陸自化学学校が、所属隊員を靖国神社に参拝させたとして関係者が通達違反で処分される事案も起きている。さらに昨年5月、海上自衛隊の幹部165人が制服姿で靖国神社を集団参拝していたとの事実を赤旗が2月17日に報道、朝日新聞なども後追い報道。赤旗によると、靖国神社の昨年7月社報に、5月17日に練習艦隊司令官・今野泰樹海将補はじめ初級幹部ら165人が「航海に先立ち正式参拝した」との記事が掲載されている事実を紹介。同社報記事の写真では「幹部らが制服姿で昇殿参拝しており」公的な集団参拝だった疑いがあるという。
戦後憲法が何故「政教分離原則」を定めているのか、今一度、その原点を振り返る必要がある。戦後憲法の政教分離規定は旧憲法体制下の「国家神道」の否定にその核心がある。「国家神道」が日本軍国主義の精神的支柱として先の大戦推進の大きな機能を果たし、その中心が靖国神社であった。戦前、帝国陸、海軍の管理の下で官軍戦死者の慰霊を一手に引き受け、戦後には極東国際軍事裁判(東京裁判)で「平和に対する罪」に問われ、有罪となったA級戦犯14人が合祀されている。
陸自は「航空安全祈願のため」、海自は「航海の安全祈願」と参拝目的を説明しているが靖国神社にそんな「御利益」があるのか、取って付けた理由に過ぎない。戦前、戦後を通じて一貫して戦争と繋がる靖国神社への自衛隊幹部の参拝は否定すべき戦前の軍国主義の亡霊を呼び起こす動きと連動しかねない。「自由意思に基づき私人として行った私的参拝」として済ますわけにはいかない。(運営委員 平田芳年)