2024年11月号:えん罪を防ぐための再審法改正を

【声明】現代の理論』題字訴訟 最高裁決定を受けて

【寄稿】選択的夫婦別姓への早期法改正を求める

【寄稿】自治体の「誰も断らない」支援をどうつくるか

【寄稿】“共に生きよう”を伝えたい

【案内】「アフリカの森の民・ピグミー」招聘

巻頭言:えん罪を防ぐための再審法改正を

 10月9日、静岡地方検察庁は袴田事件について、再審で無罪が言い渡された判決について控訴の権利を放棄する手続きを取り、袴田巌(88)さんの無罪が確定した。1966年に静岡市清水区で一家4人が殺害された事件で逮捕され、一審の静岡地裁は1968年9月に、自白調書のうち44通を無効としながら、1通の検察官調書のみを採用、さらに、5点の衣類についても袴田さんの物であるとの判断を示して、死刑判決を下した。その後、1980年11月、最高裁が上告棄却し、袴田さんの死刑が確定したが、9月に再審無罪を言い渡した静岡地裁はこれまでの裁判で有罪の決め手とされてきた「5点の衣類」や袴田さんの自白調書など、あわせて3つの重要証拠を捜査機関が「ねつ造した」と断定、検察の控訴放棄に至り、袴田さんは58年ぶりに無実の人となった。

 10月23日、1986年に福井市で起こった女子中学生殺害事件で逮捕、懲役7年の罪で服役した前川彰司さん(59)の再審開始が名古屋高裁金沢支部で認められた。28日、名古屋高検が異議申し立てを行わず、再審開始が確定した。高裁支部は検察側が新たに証拠開示した捜査資料などから有罪判決の根拠となった知人らの目撃証言に「疑いが生じた」と指摘、検察が証言と矛盾する客観証拠を隠してきたとことなどを挙げ、「無罪を言い渡すべき明らかな新証拠に当たる」と言及した。逮捕後37年の歳月が経過、この間、前川さんは服役し、その後も犯人として名指しされてきた。

 「捜査機関のねつ造」、「検察が客観証拠を隠してきた」と指摘される両事件が再審にこぎ着けるまで何故、これほどの時間が費やされたのか。

  「開かずの扉」とも評されるように、日本の司法では裁判所が裁判のやり直しを意味する再審請求に厳しい態度をとり続けており、検察は再審開始決定に対する不服申し立てで抵抗するケースが多く、えん罪防止を目的とした再審への道を閉ざしている。加えて現行の再審法(刑事訴訟法の再審規定)は再審手続きを具体的に示した規定に乏しく、証拠開示の規定もない。このため捜査報告書や現場写真、録音テープなど有罪を立証した証拠類の開示は裁判官の裁量と検察官の任意開示次第という事情がある。「戦後、日本弁護士連合会が支援して再審無罪を勝ち取った18件の多くは、再審請求の段階になって出てきた証拠がカギを握っていた」(東京新聞)。袴田事件でも有力証拠が開示されたのは2010年の第2次再審請求審になってからだ。

 11月2日付朝日新聞の「be on Saturday」紙面で「検察を信用できますか?」というタイトルの読者アンケート(回答者2298人)が掲載されている。アンケート結果は「検察を信用できない」との回答が全体の69%占めた。その理由(複数回答)は「えん罪を生み出している」が最多の1218人、次いで「自らの過ちや非を認めない」934人、「証拠を捏造している」915人と続く。他にも「権力の顔色をうかがう」822人、「組織を優先している」847人などの指摘があり、市民の目線から見ると、検察への信頼は地に落ちた感がある。

 判事も検事も人である以上、過ちは避けがたい。しかし死刑判決を言い渡し、刑が執行されてから、えん罪が判明しても取り返しがつかない。30年、40年という長きにわたって犯人扱いされる人生を考えるとえん罪を最小限に抑制するための法制度の整備が求められている。日弁連は今年2月、再審法改正を国に求める意見書と改正案を公表し、証拠開示制度の創設や検察官の抗告の禁止を訴えている。司法官僚の意向を忖度し、長らく再審制度の改革を怠ってきた自公政権が過半数割れした今こそ、再審法の改正に踏み切る好機でもある。(運営委員 平田芳年)