季刊『言論空間』2024秋号

編集長のことば

このキャッチコピーは、特集:利光さんの論考から頂いた。「法廷内は拍手と両手を頭上でひらひらさせる手話で満ち溢れた」「約30年前から被害を訴えてきた飯塚淳子さん(仮名)は『長い間苦しんでここまで来た。今日は最高の日』と声を詰まらせた」。さて、この特集はいろいろなことを教えてくれるが、主体の歴史について指摘しておきたい。「私は2019年5月仙台地裁不当判決をきっかけに学生団体で活動を始めた。裁判での闘いと被害者を支える運動が両輪となって、進んできた。裁判闘争でありながら、裁判闘争にとどまらない運動であった」(池澤美月)。

この池澤論考に連載「沖縄の助産婦、海をあるく⑥」を重ねてみる。「1982年秋。19歳の私は渋谷の山手教会にいた。優生保護法の改悪を阻止しようと大勢の女性が集まった。82年『阻止連』は『SOSHIREN女(わたし)のからだから』と名前を変え、40年以上活動を続けている。阻止連のおかげで私はたくさんのウーマンリブの女性たちに出会えた」(トルネードまーりー)。

私(編集長)の優生保護法反対の最初の行動は1977年4月「青い芝の会」の川崎市での決起に参加した時であった。リブの運動の誕生期と重なっていた。あれから約50年。「特集」では世代を超えて、あの時代の闘いと運動の精神が繋がっていた。そう読み解くことが出来た。出口の見えない重苦しい時間のなかで、それでも闘い続けた原告の運動は、日本社会の地下水脈を構成し途絶えることはなかった。どんなに少数であっても不条理との闘いは見えない壁を突き崩す。この歴史的な勝利は日本流の社会革命と言える。

『現代の理論』をリニューアルし『言論空間』の第一号にこの特集を掲載出来たことを誇りに思い、感謝したい。

[特集]旧優生保護法裁判・最高裁判決

「歴史的「違憲」判決、首相による謝罪、そしてこれから」他

出版社 ‏ : ‎ 同時代社 (2024/10/10)
発売日 ‏ : ‎ 2024/10/10
言語 ‏ : ‎ 日本語
単行本(ソフトカバー) ‏ : ‎ 164ページ
ISBN-10 ‏ : ‎ 4886839746
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4886839749
寸法 ‏ : ‎ 21 x 14.8 x 1 cm

『言論空間』2024年秋号:目次

【特集】旧優生保護法裁判・最高裁判決
 歴史的「違憲」判決、首相による謝罪、そしてこれから
   藤木和子(弁護士・手話通訳士)
 「優生連」での運動を通じて
   池澤美月(優生連 事務局)
 声を上げ続けた被害者らがつかみ取った完勝判決
   利光恵子(優生連 共同代表)
 精神障害者から見た旧優生保護法と今後の展望
   桐原尚之(全国「精神病」者集団 運営委員)

NPO現代の理論・社会フォーラム通常総会記念講演
幹部自衛官らの靖国汚染と大東亜戦争史観
内田雅敏(弁護士)
検証・東京都知事選挙
立憲民主党は理念を刷新し、新たな戦略を打ち立てよ
   小林正弥(千葉大学教授)
 共同行動の到達点と見えてきた希望
   鈴木国夫(「Change都政市民プロジェクト」事務局長)
改正地方自治法を問う
地方自治に重大な危機
小島延夫(弁護士)
 災害時「危機管理の現場化・地域化」こそ必要
   野村羊子(東京都三鷹市議会議員)
 国の指示では市民の安全は守れない
   福嶋浩彦(元我孫子市長・中央学院大学教授)

バーバラ・リーの足跡に学ぶ
   岡田泰弘(アフリカ史研究者)
大統領権限を盾に国民議会を軽視するマクロン「皇帝」
   土田修(ル・モンド・ディプロマティーク日本語版理事)
続・揺れるジャーナリズム 軋む表現の自由
   山田健太(専修大学教授)
「売春防止法」から脱却し、幅広い女性救済へ
   武子愛(島根大学人類科学部)
変革期に入った国際課税制度
   金子文夫(横浜市立大学名誉教授)
金正恩政権 異例の路線変換―平和統一政策の放棄
   安尾芳典(共同通信客員論説委員)
ウクライナ戦争 和平交渉を潰した越境クールスク侵攻
   下斗米伸夫(神奈川大学特別招聘教授)
労働党新政権―「スターマー構想」は実現したのか?
   進藤兵(都留文科大学教員)
不利益の公正分配―脱原発社会への長い道
   小野一(工学院大学教授)

【かっこいいおんなになるために。】「後戻りするな」
   松元ちえ(ジャーナリスト)
【現代の非理論】イスラエルを招待しなかった理由
   松本仁一(ジャーナリスト)
【メディア季評】自覚なきメディアの退廃と、かすかな希望
   石井彰(放送作家)
【話題の文学】異文化とどう向き合うか
   尾張はじめ(葦牙の会)
【定説を疑え―経済の行方を読み解く】
   蜂谷隆(経済ジャーナリスト)
【レキオからの便り】餓死・銃殺に怯えた朝鮮人軍夫の慰霊祭
   国吉真太郎(作家)
【ドイツに暮らす】「記憶の堆積―文学・美術・音楽をめぐって」
   フックス真理子
【沖縄の助産婦、海をあるく】性と生殖をめぐる社会正義を求めて
トルネイドまーりー
【感じる映画たち】「もしも」の近未来―“非人間化”がもたらすもの
   加田斎(フリー編集者)
【東洋医学こぼれ話】薬食同源①
   大木一史(薬剤師・鍼灸師)

[先住民族研究会報告]ピグミー招聘に向けて~アフリカの森の民と話し合おう
   西原智昭(日本森林管理協議会事務局長)
[経済分析研究会報告]21世紀のインドネシア経済―成長の軌跡と課題
   加納啓良(東京大学名誉教授)
[オルタクラブ研究会報告]マルクス思想の変遷―アジア的世界をどう考えるか
   的場昭弘(神奈川大学名誉教授)
[私にも一言―読者のページ]これからも期待すること
   然雄(元自治体職員)
[今、私が薦めたいこの一冊]『少女人身売買と性被害』
   向山夏奈(書籍編集者)

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