季刊『言論空間』2025春号

「逆流の歴史」に踏み出したトランプ政治

 トランプ大統領が復権し、矢継ぎ早に現状打破に挑戦し始めた。どこまで本気なのか、誰もわからない。いたるところで動揺と混乱が広がっている。トランプ大統領は「グレート・アメリカ・メイク・アメリカ」と主張し、「米国大統領の権力」を一方的に行使。さまざまな国際機関も、各国政府も、社会勢力もトランプ言動に振り回され、「濁流に溺れそうな」(本誌栗田路子論考)不安定な状況になっている。はっきりしていることは、ウクライナ停戦問題、「ガザ虐殺」進行中のパレスチナ問題、関税を武器にした貿易・通商戦争、国際条約と相互協力で成り立っている国際機関の在り方、どの分野でもトランプ政治は1929年世界恐慌・ニューディール政策以来、米国(西欧)主導で蓄積してきた自由・民主・平和への流れを、米国政府自身が突き崩す「逆流の歴史」を歩みだした。「西欧の敗北」なのか「新保守主義革命」なのか、あいまいではあるがあいまいに出来ない時代が始まった。
 自由、民主、進歩、多様性という基本的価値(普遍的価値)が不確かになり始めたのであるから、文明史を含む歴史観の見直しという原理的な領域もこれからのテーマになった。2025春号は現実の政治焦点への鋭い切り口と並んで、動き出した新たな領域への問題提起が含まれているように思い、今後の編集に活かしたい。
(本誌編集長 山田勝)

【特集】トランプ復権と激流に溺れる世界政治

アメリカ大統領選後の世界と日本への影響
前嶋和弘(上智大学教授)

激流に溺れる西欧
栗田路子(ブリュッセル在住/ジャーナリスト)

トランプ2・0と欧州極右の台頭
土田修(ル・モンド・デイプロマティーク日本語版理事兼編集員)

〈露宇戦争〉トランプ革命とウクライナ戦争
下斗米 伸夫(神奈川大特別招聘教授・法政大名誉教授)

西洋文明の始まりと終わり(私の文明論)
錦織淳(弁護士、元衆議院議員)

【ミニ特集】アフリカの森の民とアイヌ民族が交流

 子どもたちの質問相次ぐ
 更科幸一(自由学園園長)

 歌とノリと飲食と仲間
 倉内慎介(屋台大学)

 自然を対象に叡智と文化を築く
 若杉紘一(武蔵野美術大学造形構想学教授)

 文明観・価値観を問い直し迫る
 小泉雅弘(さっぽろ自由学校「遊」事務局長)

 アフリカの自然とともに生きる人々へ
 多原良子(メノコモシモシ代表)

 ピグミーの人々の視力の確かさにびっくり
 宇佐照代(アイヌ料理店「ハルコロ」)

----

課題の拡張が続く国民投票法制にどう向き合い、解決するべきか
南部義典(国民投票総研代表)

ワクチンは矛盾しているが、選択できるもの
松山剛(松山クリニック院長)

尹錫悦内乱とキャンドル民主主義―極右・保守勢力に抗する人々の闘い
白石孝(日韓市民交流を進める希望連帯代表)

人道外交―超党派外交議連の静かな奮闘
横山弓彦(衆議院議員阿部知子政策担当秘書)

米欧の階級闘争は「極右」が担う
大西広(慶應義塾大学名誉教授)

寺山修司『僕が戦争に行くとき』を読み直す
希望という病気
坂本美幸(青森市在住)

少年死刑囚・作家、永山則夫の叫びを改めて聞き直す
市原みちえ(永山則夫さんの身柄引受人候補・最後の面会者)

気が遠くなる48年間の獄中生活に耐えた
青柳雄介(ノンフィクション作家)

市民運動への岐阜県警監視・情報提供は違法
近藤ゆり子(大垣警察市民監視違憲訴訟の勝利をめざす「もの言う」自由を守る会)

正義を求める闘いは終わらない
吉田邦彦(中国・広東外語外貿大学法学院・雲山特別教授)

マルクスとエンゲルスは一心同体だったのか
的場昭弘(神奈川大学名誉教授)

「良識と責任」を取り戻そう!
飯島博光(元税務労働者)

フクイチの底にデブリがある限り真の復興はありえない
伊藤久雄(NPO法人まちぽっと)

ドイツの頑迷石頭=債務ブレーキ直ちに外せ!
柏木勉(経済アナリスト)

【連載】
〈話題の文学〉戒厳令がやってきた!
尾張 はじめ(葦牙の会)

〈感じる映画たち〉女優たちが体現する男社会のくびき
加田斎(フリー編集者)

〈定説を疑え!経済の行方を読み解く〉
賃上げの「一本足打法」で個人消費の低迷打破は可能か
蜂谷隆(経済ジャーナリスト)

〈かっこいいおんなになるために。〉パンドラの箱の底
松元ちえ(ジャーナリスト)

〈現代の非理論〉ジョン・レノンは間違っている?
松本仁一(ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員)

〈メディア季報〉瓦解するのか? フジサンケイグループ
石井彰(放送作家)

〈沖縄の助産婦、海を歩く〉性暴力根絶条例がほしい
トルネイドまーりー

〈レキオからの便り〉沖縄の闇を撮る女性写真家 松村久美
鈴木次郎(自由学園)

〈東洋医学こぼれ話〉薬食同源③
大木一史(薬剤師・鍼灸師)

〈ドイツに暮らす〉「世代の差―ピザとスシの間」
フックス真理子(ドイツ在住)

〈今、私が薦めたいこの一冊 〉
『コロナ禍とワクチン見捨てられる被害者』
前澤ゆう子(元医療福祉労働者)

的場昭弘『「19世紀」であわかる世界衣講義』
石井明美
〈追悼〉古川さんありがとう
平田芳年(NPO現代の理論・社会フォーラム理事)

追悼 古川さんありがとう

平田 芳年(認定NPO現代の理論・社会フォーラム理事) 

 昨年12月7日、古川純(あつし)理事長が亡くなった。2005年の言論NPO現代の理論設立以降、NPO活動の大きな転機と飛躍は季刊雑誌『現代の理論』出版事業を明石書店に無償譲渡した時から始まったように思う。2007年11月の臨時総会で名称を「NPO現代の理論・社会フォーラム」に変更、新理事長に古川さんを選出して「NPO現代の理論第二期」をスタートさせた。
 古川さんが臨時総会後の第一回理事会に提案した理事会声明文では、市民社会の活動の一角に参加することを強調した上で、「雑誌『現代の理論』を世に送り出した私たちは、これからは雑誌に限られない市民的公共空間を生み出していこうと思います。そしてそれを支え、推進する広範な共同性を生み出すために多様な活動を続けよう」と提起。NPOは研究フォーラムの開催、会報の発行、会員交流、文化・歴史・紀行プロジェクトの推進を定式化、今のNPO活動の枠組みを定着させてきた。
 とくに古川さんが自身の知見を生かした「憲法・平和研究会」の開催を陣頭指揮してきたことは会員の記憶に残るが、「歴史・紀行プロジェクト」への肩入れも並々ならぬものがあった。同プロジェクトは2008年6月の「足尾・渡良瀬川地域探訪」を第一回に、2019年の「幕末・維新の会津、喜多方を訪ねる」ツアーまで毎年1回のペースで開催。2012年には番外編「関東大震災 被災と復興を巡る」ツアーと東日本大震災から1年半の節目にあたる「奇跡の災害ボランティア『石巻モデル』を訪ねる」を連続開催。
 古川さんは全てのツアーに参加した数少ないメンバーでもある。ツアーは原則1泊2日の日程で、マイクロバスで移動。古川さんの提唱で必ずツアー2、3週間前に「事前勉強会」を開催する熱の入れよう。地元研究者との連絡や歴史施設、観光名所、地域の特産品市場などを巡るツアー計画の作成に主体的に関与、毎回宿泊旅館で開催する参加者交流会にも泡盛や地域の銘酒持参で参加、心から愉しんでいる雰囲気が伝わってきた。コロナ感染症拡大で2020年の「伊那谷・満蒙開拓平和祈念館&馬籠塾・島崎藤村記念館を訪ねる」ツアーは中止。コロナ禍の終息で再開を企画したが、古川さんが病に倒れ、中断したまま。再開を熱望されていた古川さんの期待に添えなかったことが、悔やまれる。

古川純を偲ぶ会
 6月14日(土)に東京・神保町の専修大学神田校舎を会場に偲ぶ会を予定しています。皆さまには改めてご案内します。
                  認定NPO現代の理論・社会フォーラム

ご購入はこちらから