季刊『言論空間』2025秋号

漂流時代の「幻想と希望」

こっちでは猛暑、こっちでは豪雨。こっちでは洪水、こっちでは渇水。獲れていた魚がいなくなり、別の魚で魚市場は活性化。自然界の動きと同じように、人間の社会と政治のあり方も激変が広がっている。この秋号の表紙コピーは「漂流の時代の『幻想と希望』」としました。私がなるほどと思った指摘がいくつかありました。(参政党の)「注目すべきは極右的主張より政治的無関心層」(古谷経衡さん)、「国際公共財としての覇権国」(蜂谷隆さん)、「リベラリズムを中心とした政権交代は幻想だ」(小林正弥さん)、「パレスチナと『人の道・外交』」(阿部とも子さん)。混沌とした時代の流れを切り裂くうえで現状を直視し新たな視点を導入したり、それぞれの従来の発想や思想の反省しながら時代と格闘する論考に出会うのは雑誌の醍醐味です。
ミニ特集の白井康彦さんの論考は難しい。しかし、厚労省の「物価偽装のカラクリ」を解明するために8千時間をかけて必死に研究したとある。生活保護という「いのちのとりで」を守った最高裁勝利判決を支えたその努力に頭が下がります。また、松山毅さんの「開業医のコロナ顛末記」を拝読すると、あのコロナの時に必死で闘い抜いた「町医者」の軌跡にびっくりです。「開業医をどう思いますか」とのメッセージに市民とともに地域社会(コミュニティー)を変えたいとの強い思いを感じます。少数かも知れないが各地に同じように黙々と活動し続ける人々は無数にいる。日本では地域社会(コミュニティー・市民社会・中間団体)のなかには、明示されていない確かな希望がある。「幻想と希望」が入り乱れる時代であるからその分別を嗅ぎ分ける雑誌でありたいと思う。(編集長 山田勝)

【特集1 ポスト参院選――政権をめぐる与野党の漂流】
 参政党躍進――注視すべきは「政治的無関心層」  古谷経衡(作家・評論家)
 大規模な政治再編の序幕としての参院選      木下ちがや(政治学者)
 参院選が示した日本社会の地殻変動        大井赤亥(政治学者)
 政権交代のためにはリベラリズムに固執するな
 ――幻想を捨てて、右派ポピュリズムに対抗せよ  小林正弥(千葉大学教授)
 政権政党・自民党の終焉へ 参政党の戦前型思想背景  山田勝(本誌編集長)

【特集2 生活保護減額処分は無効】
 10年超しの「いのちのとりで裁判」勝訴判決勝ち取って
                     神馬幸悦(新生存権裁判東京原告団) 
 生活保護費減額訴訟で原告側が歴史的勝訴 
 最高裁判決は「でたらめな統計利用」への警鐘 白井康彦(フリージャーナリスト) 
 生活保護費減額訴訟最高裁勝訴判決後の攻防と課題 
                     吉田和男(さんきゅうハウス共同代表) 

【論考】
 阿部とも子(人道外交議連事務局長)インタビュー 
    パレスチナと「人の道・外交」日本国家に「パレスチナ国家」承認を求める
 「受苦者」の抵抗への連帯――20 世紀の宿題としてのパレスチナ問題
                       川野正嗣(大阪大学非常勤講師)
 コメの減産(減反)から増産へ? 農政の大転換と「緑の農政」を考える  
              郡山昌也(NPO法人全国有機農業推進協議会理事)
 ブラジル水俣病の現状と課題――COP30に言寄せての現場主義的考察 
           吉田邦彦(中国・広東外語外貿大学法学院・雲山特別教授)
 トランピズムに翻弄される欧州政界 マリーヌ・ルペンの被選挙権停止の衝撃 
    土田修(ル・モンド・ディプロマティーク日本語版理事、ジャーナリスト)
 何が勝利で、何が敗北か エマニュエル・トッド『西洋の敗北』を論ず 
                          三上治(『流砂』編集長)
 コロナ顛末記 みなさんにとって開業医はどんな存在ですか?  
                        松山毅(松山クリニック院長)
 コミュニティ・ユニオンとしてのサポートユニオンwithYOU(労働組合)  
            島野正通(労働組合サポートユニオンwithYOU事務局長)
 子どもは自己決定をする「権利の主体」 不登校と子どもの権利  
                   鎌倉賢哉(NPO法人越谷らるご理事長)

【連載】
かっこいいおんなになるために。
「女性の休日」が変えた日常風景  松元 ちえ(ジャーナリスト)

ちょっと深堀りヨーロッパ 2
参院選を振り返り、極右台頭の欧州を俯瞰する 
                栗田路子(ブリュッセル在住/ジャーナリスト)  

話題の文学
小学生時代の夏休みに起きたこと  尾張はじめ(葦牙の会)

福島県浜通りに未来はあるか
福島県中間貯蔵施設の不条理を読み解く 環境省と東京電力に対する地権者の闘い  
                   門馬好春(30年中間貯蔵施設地権者会会長)

現代の非理論 31
フォーサイスがクーデターを仕組んだ?  
                松本仁一(ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員)

沖縄の助産婦、海をあるく⑩
         『ウナイ』の世直し  トルネイドまーりー(助産師)

レキオからの便り 31
        怒りの矛先  親川裕子(Be the Change Okinawa代表)

東洋医学こぼれ話 20
             灸について①  大木一史(薬剤師・鍼灸師)

ドイツに暮らす21
    理知の向こうに――マケドニアで考えたこと フックス真理子(ドイツ在住)

ウクライナ戦争―戦場の論理と停戦の条件 13 
        アラスカ以降の和平交渉 
           下斗米 伸夫(神奈川大学特別招聘教授・法政大学名誉教授)

定説を疑え! 経済の行方を読み解く 7
覇権的役割からの離脱を加速させるトランプ関税 ドル基軸通貨体制も揺らぐ  
                        蜂谷隆(経済ジャーナリスト)

感じる映画たち 24
『スノードロップ』『ぼくらの居場所』――「誰一人取り残されない」社会とは  
                           加田斎(フリー編集者) 

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