小竹 雅子(市民福祉情報オフィス・ハスカップ主宰)
介護保険制度への関心は低い
2000年度に公的介護保険制度(以下、介護保険)がスタートして四半世紀が過ぎたが、2025年のアンケート調査では、制度を「ほんど知らない」38%、「まったく知らない」24%と、関心の低さが報告されている(1)。
介護保険は強制加入で、40~64歳の第2号被保険者が4185万人、65歳以上の第1号被保険者が3589万人、合計7774万人が毎月、介護保険料を払っている(2)。月額の平均保険料は初年度の約3000円から、2024年度は6000円超に倍増した。しかし、「現役世代」は、給与から健康保険料と一括で源泉徴収される。高齢者は年金所得が月1万5千円以上であれば、天引き(特別徴収)だ。手取り額しかみなければ、介護保険料がいくらなのか知らない人も少なくないだろう。
また、具合が悪くなれば、保険証持参で医療機関に出かける健康保険と異なり、介護保険のサービス(給付)を利用するには、市町村の判定(基本チェックリスト、要支援認定、要介護認定)が必要だ。2026年4月現在、認定者は738万人で、加入者の1割に満たない(3)。
相談窓口が地域包括支援センター(市町村によって愛称が異なる)であることや、判定には訪問調査と認定審査の二段階の手続きがあること、複数のサービスを利用するにはケアマネジャー(介護支援専門員)とともにケアプラン作成が必要といった、込み入った基本情報も知らないだろう。あるいは、情報はあっても、相次ぐ制度変更に追いつけないこともある。
もう一つ、多くの人には介護が必要になる、世話をされることへの忌避感がある。これは、「介護予防」や「健康寿命の延伸」などの政府方針と相性がいい。「知らない」人には、「知りたくない」という心理も隠されている。
介護労働者の給与は低い
介護保険の総費用は14・6兆円(2026年度予算)だ。このうち1・1兆円はサービスの利用者が払い、残る13・5兆円が給付費として、介護保険料と税金で6・8兆円ずつ折半されている。
さらに、介護保険料の50%は、人口比率で、「現役世代」27%、高齢世代23%と分担する。少子高齢化が続くため、高齢世代の介護保険料は自動的に上昇する計算式だ。
税金は、国庫25%、都道府県と市町村がそれぞれ12・5%の負担だ。つまり、14・6兆円の総費用のうち、国の負担は3・2兆円(調整交付金を含む)で、給付費の4分の1だ。とはいえ、サービス料金(介護報酬)の増減は、国の予算案で決定される。
介護報酬改定は、開始直後から引き下げが2回続き、賃下げによるホームヘルパーや介護職員など介護労働者の離職が急増した。国会で交付金が作られ、加算報酬(介護職員等処遇改善加算)が追加された。以降、同じパターンで小幅な賃上げが繰り返されてきた。だが、2025年になっても、全産業平均39・6万円に対して介護労働者31・4万円と8万円以上の開きがあり、低迷が続く(4)。
その結果、介護労働者は2022年度の215・4万人をピークに、2023年度は212・6万人と減少に転じた。市町村の推計では、2026年度に240万人、2040年度には272万人が必要だが、介護保険の給付が必要と認定されても、「人材不足」のためサービスが利用できない事態を迎えている。
「介護問題」は社会化されたが…
介護保険がスタートするとき、「介護の社会化」という言葉をよく聞いたが、この26年間を振り返れば、「介護問題の社会化」は確かに実現した。
20世紀末まで、家族の問題と片づけられていた高齢者虐待や介護殺人、介護心中、ごみ屋敷、「8050問題」、「ダブルケア」に「ヤングケアラー」、「ビジネスケアラー」など、介護をめぐる多様な課題が、社会問題として浮上した。
しかし、介護保険はスタートした途端、小泉内閣の『骨太の方針』にもとづく、社会保障制度全般の給付抑制策に巻き込まれ、「このまま給付費が増えれば制度が破綻する」と批判にさらされた。
とはいえ、社会保険料と税金を財源とする社会保障給付費は伸び続け、2024年度は総額138・3兆円だ。だが、部門別によくみれば、「年金」が41・8%、「医療」が32・4%を占め、「介護」は8・7%に過ぎない。(5)。
ホームヘルプ・サービスの抑制による「介護の再家族化」
介護保険のサービスは、在宅サービス、地域密着型サービス、施設サービスに分類されるが、在宅サービスの利用者が564万人で、約6割だ。利用者が多いのは、①ホームヘルプ・サービス、②デイサービス、③福祉用具レンタルの順だった。しかし、25年間を経て、①福祉用具レンタル、②居宅療養管理指導、③デイサービスになり、ホームヘルプ・サービスは4位に後退した(3)。
ホームヘルプ・サービスの需要が減ったわけではない。「介護予防」をキーワードとする2004年改正で、認定ランクと給付が分割され、要支援認定者(要支援1、2)へのホームヘルプ・サービスとデイサービスは介護報酬が減らされ、2015年改正では、給付からはずれ、市町村事業(地域支援事業)に移った。現在は、通称・総合事業(介護予防・日常生活支援総合事業)の訪問型サービス、通所型サービスだ。
なにが違うかと言えば、給付費は認定者への個別給付で、サービスを提供するのは基準をクリアした指定事業所だ。事業の場合、費用は市区町村に渡され、訪問型サービス、通所型サービスともに、市区町村が委託した事業所が提供し、基準の定めはない。なお、要支援認定者は増え続けているが、訪問型サービスの利用者は2018年の41万人から2026年は35万人と減少傾向が止まらない(6)。
給付に残された要介護認定者(要介護1~5)へのホームヘルプ・サービスは「身体介護」と「生活援助」、「通院等乗降介助」の3メニューだが、介護報酬の見直しのたびに「生活援助」の提供時間、提供回数が削られてきた。
なぜ、ホームヘルプ・サービスが批判され、抑制され続けるのか。考えられるのは、ホームヘルプ・サービスへの評価の低さだ。「誰でもできる」という発言を聞くこともあるが、相手は介護が必要な認定者で、75歳以上が9割だ。認知症の人が最も多く、「高齢による衰弱」、「転倒・骨折」が続く(7)。介護が必要な人とのコミュニケーションや、適切な「生活援助」の提供は、「誰でもできる」ものではない。
だが、屈辱的ともいえる抑制策が続くなか、ホームヘルパー(訪問介護員)は高齢化が著しく、2024年の有効求人倍率は14・7倍と驚異的で、消滅の瀬戸際だ(8)。
しかし、残念ながら、多くの人は自身や家族に介護が必要にならないと、制度に関心を持たない。そして、介護が必要になったときには、制度そのものに関心を持つゆとりはない。その結果、ホームヘルプ・サービスが利用できなければ、「介護の社会化」は「介護の再家族化」に回帰する。働く介護家族(365万人)は、仕事を辞めざるを得ない。毎年11万人が「介護離職」するが、正社員としての再就職は難しい。育児と介護の「ダブルケア」を引き受ける人は20万人になる(9)。「ひきこもり」の中高年世代(40~64歳)61万人は、社会参加がさらに困難になる(10)。介護保険とともに増えてきた「老老介護」では、疲弊した配偶者は介護うつになり、自身も要介護者になり、究極の悲劇として介護殺人、介護心中が起きている(7)。
特別養護老人ホームの制限と「高齢者向け住まい」の増加
介護保険の施設サービスは、特別養護老人ホーム、老人保健施設、介護医療院の3種類しかない。
誤解が多いが、認知症グループホームは地域密着型サービス、介護付き有料老人ホームが提供するのは「特定施設入居者生活介護」という名の在宅サービスだ。「居住系サービス」とも分類されるが、施設サービスとの最大の違いは、食費・居住費が全額自己負担で、低所得の利用者への補助(補足給付)がないことだ。
介護3施設のなかでは、生活施設として看取りまで行う特別養護老人ホームの人気が高く、2014年、待機者は52万人まで膨らんだ。ところが、「地域包括ケアシステム」を掲げた同年の法改正で、特別養護老人ホームだけが要介護3以上の利用が原則となった。要介護1、2は「特例入所」と制限され、待機者も要介護3以上となり、2025年は22万人と数字の上では大幅に減少した(11)。
では、「特例入所」も認められない要介護1、2の待機者はどこへいったのか。厚生労働省が「高齢者向け住まい」と呼ぶ住宅型有料老人ホーム(定員39万人)、サービス付き高齢者向け住宅(入居者29万人)が急増した。どちらも賃貸住宅と同じで、食費・居住費は全額自己負担で、介護保険は自宅と同じく在宅サービスを利用する。
ただし、ケアマネジャーの事業所(居宅介護支援事業所)やホームヘルプ・サービスなど在宅サービス事業所を併設している場合もあり、施設サービスと勘違いする人もいる。なかでも、「生活支援サービス」などまぎらわしい名称で全額自費の介護保険外サービスを提供している場合、入居者の負担が高額になるケースもある。とはいえ、「高齢者向け住まい」の入居者も90代が3~4割を占め、「死亡退去」が増えている(12)。
「人材確保」をあきらめた2026年改正
6月19日、特別国会で介護保険法改正案が賛成多数で成立した。
改正案は、九つの法律を束ねた「社会福祉法等の一部を改正する法律案」に含まれ、マスコミは「頼れる身寄りのない高齢者」のための社会福祉法改正案に注目した。だが、改正項目は介護保険法が最も多い(13)。
最大のポイントは、「中山間・人口減少地域」を「特定地域」と呼び、該当する市町村の事業所は「特定地域サービス」を提供するという見直しだ。
「特定地域サービス」の事業所は、人員配置基準(管理者や専門職の常勤・専従要件、夜勤要件)を緩和(弾力化という表現もある)できる。つまり、介護労働者の数を減らしていいことになった。さらに、「特定地域」の市町村は、人員配置基準を緩和しても事業所が維持できなければ、在宅サービス(ホームヘルプ・サービス、訪問入浴、デイサービス、ショートステイ)を給付からはずし、「特定地域居宅サービス等事業」として地域支援事業に移すことが可能になった。
「中山間・人口減少地域」といえば、多くの人は過疎地と思うだろう。しかし、「中山間地域」はすでに、基準該当サービスや離島等相当サービスなど、人員配置基準を緩和したサービスを提供している。改正のターゲットは、「人口減少地域」だ。
2040年まで高齢者人口が増えることへの対応が必要な時期に、2040年に高齢者人口が減少するからという、ポイントを大きくずらした改正法が成立した。おまけに、「厚生労働大臣は、基準を定めるときは、あらかじめ社会保障審議会の意見を聴かなければならない」として、法律が改正された後、社会保障審議会で詳細を詰める「おまかせ法案」だった。
すでに、7月から社会保障審議会で検討がはじまり、厚生労働省は「特定地域」を「75歳以上人口」を基準にする素案を示している。素案に該当するのは894市町村で、全国の半数に及ぶ。
「人材不足」にあえぐ事業所の存続のため、被保険者への給付の公正性や平等性は、誰も問わない。約7800万人の被保険者には、給付が必要と認定されても、介護労働者を減らした事業所しかない、という近未来が待っている。
このほか、介護保険証のマイナンバーカード化、夜間ホームヘルプ・サービスの廃止、住宅型有料老人ホーム(サービス付き高齢者向け住宅を含む)の入居者のケアマネジメントのみ有料化など、改正法の課題はさまざまにある。また、10年近く継続審議になっている、利用者負担を2割にするテーマは、高市内閣が社会保障審議会に年末までに結論を出すことを求めている。
介護保険制度の財源は少ない。少ないので介護労働者の給与は低く、定着しない。直近の熊本地震をみても、災害時に苦境のなか奮闘する介護労働者の評価を高め、対価にみあう賃金を保障しなければならない。2040年まで財源を増やすには、負担の押しつけあいや、「介護保険を知らない」ではすまない事態であることをぜひ、理解してもらいたい。
(1)一般財団法人長寿社会開発センター(髙井康行・理事長)『「介護保険制度に関する認知度調査」とりまとめ報告書』(2026年3月)
(2)社会保障審議会介護給付費分科会(菊地馨実・部会長)第256回(2026・04・27)資料3『介護分野の最近の動向』
(3)厚生労働省老健局『介護保険事業状況報告』
(4)社会保障審議会介護給付費分科会(岩村正彦・分科会長)第263回(2026・08・28)資料3『介護人材確保に向けた処遇改善等』
(5)国立社会保障・人口問題研究所(林玲子・所長)『社会保障費用統計』「部門別社会保障給付費」
(6)厚生労働省老健局『介護給付費等実態統計』
(7)厚生労働省『2025年国民生活基礎調査の概況』
(8)社会保障審議会介護給付費分科会(田辺国昭・分科会長)第242回(2024・09・12)資料2『訪問介護事業への支援について(報告)』
(9)総務省統計局『2021年社会生活基本調査』、『2022年就業構造基本調査』
(10)内閣府『令和4年度「こども・若者の意識と生活に関する調査」報告書』(2023年3月)
(11)厚生労働省老健局『特別養護老人ホームの入所申込者の状況』
(12)社会保障審議会介護給付費分科会(岩村正彦・分科会長)第262回(2026・08・05)資料2『高齢者住まいに対するサービス提供の在り方』
(13)厚生労働省『社会福祉法等の一部を改正する法律案要綱』「第2 介護保険法の一部改正」
●おだけ・まさこ
2003年から、「市民福祉情報オフィス・ハスカップ」(http://haskap.net/)を主宰。社会保障審議会の傍聴をもとに、メールマガジン『市民福祉情報』(2026年8月現在、1371号)を無料配信中。1998~2020年まで、介護保険制度について電話相談を開設し、セミナー、国会集会などを企画。『ハスカップ・レポート』を不定期発行。著書に『総介護社会 ―介護保険から問い直す』(岩波新書)、『「市民活動家」は気恥ずかしい でも、こんな社会で大丈夫?』(現代書館)ほか。
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