POLITICAL ECONOMY 第306号 買春処罰化だけでよいのか(上)
金田 麗子(街角ウォッチャー)
【要点】
1.売春防止法は「買う側」に罰則がない点などに批判があり、政府は改正に向けて動いている。
2.「買春処罰」をめぐっては、賛否が分かれている。
3. 海外の事例からは、現場での搾取や被害に目を向ける必要性が明らかになっている。
2025年11月、東京都の「個室マッサージ店」で12歳のタイ人少女が、1か月間60人の男性に性的サービスを強要されていたことが発覚した。少女を日本に連れて来て、店に置き去りにしたのは実の母親で、経営者などが「労働基準法違反」「児童福祉法違反」容疑で逮捕された。
この事件に対し、人身取引や子ども・若者の性的搾取の禁止に取り組む団体、「人身売買禁止ネットワーク」や、10代の女性への相談支援活動を行っている「Colabo」などが緊急集会を行い、「買春社会批判」「需要の根絶と買春処罰」などを訴えた。
衆議院予算委員会でも野党の要求を受け、高市首相は、「買春にかかわる規制」など、現行の「売春防止法」の見直しの検討を指示。法務省は売買春の規制の在り方を議論する有識者検討会を設置した。
「売春防止法」は70年前の1956年制定。金銭などと引き換えに、不特定の相手と性交することを売春と定義。売買春の禁止をいう一方、売買春そのものを刑罰の対象にしない。売春のあっせんや管理などの周辺行為を罰する。売る側が公衆の面前で勧誘したり客待ちしたりする行為「6か月以下の拘禁刑か2万円以下の罰金」とされているが、買う側への罰則はない。
法務省によると、検察が受理した同法違反容疑事件は、22年が542件、23年653件、24年615件。最も多いのは客待ちなどで、各年とも300件前後で、多くは不起訴(起訴猶予)となっている。
2023年、悪質なホストクラブで若年の女性が多額の借金を負い、売春に追い込まれる事例が問題になった。東京歌舞伎町の公園周辺などで、売春目的の客待ち行為が社会問題化している。買う側に対する処罰規定がなく、客待ちした女性だけが罰せられる現行法を疑問視する声が上がっている。
現場で起きている搾取や被害に着目
法務省の有識者検討会の第2回会合(26年4月7日)では、国内の実態を把握するための参考人ヒヤリングを実施している。「朝日新聞」(4月8日付け)によると、この日意見を述べたのは、性的搾取の問題に取り組むNPO法人「ぱっぷす」と、セックスワーカーの安全と健康を目指す団体「SWASA」。
「ぱっぷす」は「買う側の需要があり、仲介者がそれを繋ぎ、貧困や虐待や孤立が利用される構造を変えない限り、性的搾取はなくならない」と指摘。売る側を非犯罪化し支援の対象として位置付け、買う側の勧誘行為を処罰するよう求めた。法律の名称を、「売春・買春防止法」と改め、管理買春を助長する行為の罰則強化の必要性を訴えた。
一方「SWASA」は性風俗産業で働く人の多くが経済的理由から仕事を選んでいて、他の仕事と兼業している人も少なくないと説明。その上で買う側を犯罪化したフランスなどでは、売買春が人目に付きにくい場所に移り、働く当事者のリスクが増したと指摘。買う側への処罰などの規制強化に反対し、現場で起きている搾取や被害には労働環境の改善などでの対応を求めた。
海外の法制度は4つに大別される
海外の法制度は「売る側、買う側双方処罰」「買う側だけを処罰」「売買春を『非犯罪化』し罪に問わない」、「合法化して行政が管理」の4つに分類される。
買う側だけを罰する法制度は、1999年、スウェーデンが買春を女性への暴力として位置付け導入。フランスも2016年、買う側の犯罪化と売る側の処罰廃止、売春からの離脱支援を柱とする法律を施行。
2019年フランス司法省は、成果とともに客との接触がネット経由に移り、屋内型が増えたと分析している。フランス国際医療支援団体などが、2018年公表した調査では、法施行後に生活が悪化した人62.9%、収入が減った人78.2%、暴力を受けた人42.3%、売買春が見えにくい場所に移り、当事者がより危険な状況におかれたという。売る側・買う側の全面犯罪化は米国など多くの国が採用しているが、国連人権高等弁務官事務所の作業部会は、犯罪化は差別や暴力を強め、搾取や被害が表面化しにくくなるとしている。
オランダやドイツは合法化している。ニュージーランドは犯罪化による課題を乗り越え、性産業で働く人の安全と健康を守ろうと2003年、非犯罪化に踏み切った。2008年司法省の報告によると、業界の大幅な拡大は確認されず、働く人の64.8%が客を断りやすくなったが、35.3%は望まない客を受けざるを得なかったと回答。非犯罪化だけでは問題解決になるわけではないことが浮き彫りになった。(つづく)
*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より
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