理 事 会 声 明

2023年10月14日
認定NPO法人現代の理論・社会フォーラム理事会

・2023年8月24日、東京地裁(知財部)は『現代の理論』題字訴訟について驚くべき判決をだした(以下、第二次地裁判決とする)。
 「『現代の理論』の標章を付した出版物の出版、配布」の禁止、および過去出版した「出版物を廃棄せよ」との判決(注1)である。

・第一次地裁判決(2021年1月21日)では、雑誌『現代の理論』の長い歴史に立ち入り、NPOが立ち上げた第三次『現代の理論』の経緯を検討した上で、商標権について、「『現代の理論』は昭和34年から長年にわたって断続的に使用され、原告大野隆一人が表示の周知性等の獲得に貢献しているともいえない。原告大野による商標権の行使は客観的に公正な競業秩序に背反するものであり、権利の濫用として許されない」と明確に判示、被告側NPO現代の理論・社会フォーラム勝訴の判決を出した。

・今回の第二次地裁判決はNPOの出版活動の禁止という判決である。東京地裁(知財部)判決とはいえ、商標権が侵害されたら、憲法21条で保障された「出版の自由」を制限することが出来るとの異様な司法判断になっている。実際は小さな「内輪もめ」に過ぎない争いが、裁判上では商標権vs出版の自由という憲法問題に発展した(注2)。

 しかも第二次地裁判決は、雑誌『現代の理論』の歴史的経緯について踏み込まず、原告大野の登録商標申請、登録確定を唯一の根拠として被告敗訴の結論を導き出している。「出版の自由」の制限という民主主義の根幹にかかわる領域に踏み込みながら、それに対応したさまざまな論点の比較検討もないままの判決である。出版物が持つ文化的側面や歴史的経緯、民主主義と基本的人権の歴史を無視している点で著しくバランスを欠いた判決である。

・仮にこの判決が確定すると、個人や小さな団体が小冊子類を出す自由すら商標登録次第でいとも簡単に制限を受けるということに事実上帰結し、その社会的影響は非常に大きなものがある。

・商標権者大野は無論の事、その主張に同調してきたWEB版「現代の理論」編集委員会の主要なメンバーは「言論・出版の自由」を享受していながら、その基本的権利を制限する側に与しているのであるから、その社会的責任は重い。

・認定NPO現代の理論・社会フォーラム理事会は第二次地裁判決を受け、改めて陣形を立て直し、憲法問題を含めてこの題字訴訟に取り組み、その勝利に向けて『現代の理論』の持続的発行と「言論・出版の自由」のために闘い抜く決意を表明する。長期の闘いになるであろうことを覚悟し、会員の皆さま、関係者の皆さまに御支援と御協力をお願いしたい。

注1:「判決主文」は以下の通り。

1 被告らは、それぞれ、別紙目録記載の各標章を付した出版物の出版、販売若しくは販売のための展示又は頒布をしてはならない。

2 被告NPOは、別紙出版物目録記載1の出版物を廃棄せよ。

3 被告らは、それぞれ、別紙出版物目録記載2の出版物を廃棄せよ。

4 被告らは、原告に対し、連帯して17万5808円及びこれに対する令和4年7月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。

5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

6 訴訟費用は被告らの負担とする。

7 この判決は、第4項に限り、仮に執行することができる。

注2:判断が異なる二つの東京地裁判決の間には東京高裁の一部変更による「逆転判決」があった。

 東京高裁の裁判途中で、(被告が申請した)商標権の不使用(3年間)による大野隆の商標権一部取り消しの処分が特許庁から出された。2021年8月18日東京高裁は、この処分を受け少なくとも商標権が登録され取り消されるまでの期間は、被告の『現代の理論』発行事業には商標権を侵害する不法行為が成立するとして、東京地裁判決の一部変更で被告敗訴の逆転判決を出した。それでも、この高裁判決では雑誌『現代の理論』の出版・販売、廃棄処分などは全く取り上げられることはなかった。この東京高裁知財部判決では訴訟の取り扱いは商標権の範囲での取り扱いであり、憲法問題への波及は慎重に避けられていた。