AIが席巻する囲碁界と徳川家康

編集長  山田勝

 私がAIに興味がわき再び囲碁をたしなむようになったのは、AIが世界の強豪棋士を打ち破ったというニュースを聞いたことが契機であった。2016年3月であった。その時はまだ、そのAIソフトはグーグルが開発した「アルファ碁」であるとか敗北した棋士の名前すら知らなかった。同年末「マスター」という棋士が彗星のごとくネットに登場し世界の強豪を次々と打ち破り10戦全勝した。後日開発者が「マスター」は「アルファー碁の進化版」と公表した。ディープラーニングという手法でAIは成長し、人間の棋力を凌駕する時代になった。AIで研究する棋士が拡大、「NHK杯テレビ囲碁トーナメント」参加者は10代20代の若手が過半数を占める事態になった。

 「アルファ碁」は引退したがさまざまなAIソフトが開発されている。同じ問題を出してもAIソフトは別々の回答を出す。それぞれの個性があるようだ。それでもAIは従来の囲碁の定石を次々と変え続けている。最近囲碁を再開し始めた私のような高齢者には驚くばかりの変貌だ。従来の常識的な「指し手」が悪手とみなされている。AIが示す正解の指し手も解説を受けるとなるほど納得してしまう。囲碁の奥行の深さを教えられるばかりだ。

 現代の囲碁界の原型は徳川家康が寺社奉行の下に「碁所」を創設し、幕府公認の競技になった時に始まる(囲碁は仏教と共に中国から伝わった)。最高位「名人碁所」をめぐって囲碁の家元四家が競い合い、庶民にも広く流行することとなった。この家康にはエピソードがある。「徳川秀忠が真田正幸の妨害で関ケ原の戦いに遅れたとき、家康は秀忠の妻に手紙を書き『小を捨てて大に就く』という囲碁の表現を用いて『大局を見失うな』と苦言を呈した」(吉原由香里論文より)。

 今、自民党は参院選での敗北で混乱を極めている。石破退陣の大合唱は旧安倍派+茂木派+麻生派の「決起」である。「決起派」の政治意識と「非自民」に投票した国民的多数派の意識との間には絶望的な落差がある。今もなお自民党の多数派である「彼ら」には政権政党としての大局観もなく、政治を担う矜持すら見受けられない。大局観を見失った政党にも政治には未来はない。石破降ろしが強まれば強まるほど自民党は没落する。もはや自民党が復権することはないのではないか。支配的政党のない混迷の色彩を強める新たな時代が始まっている。

(アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より)