未来への希望―若い棋士たちの静かな闘志
「言論空間」編集長 山田勝
●囲碁ファンの私としては昨年一番うれしいニュースは11月6日仲邑菫4段(16)が韓国の若手女流棋戦「第4期ヒョリム杯・未来の女帝最強戦」で優勝、韓国での公式戦初タイトルを獲得した報道であった。仲邑4段は史上最年少の10歳でプロ入りし、より厳しい環境を求めて韓国棋院に移籍。現在同院の女性棋士ランキング4位になっている。
●12月10日、将棋棋士の福間香奈女流六冠(33)が記者会見し、日本将棋連盟に対して女流棋士の妊娠・出産を巡る規定の見直しを求めたことを明らかにした。福間さんは女流8タイトルのうち六つを保持する。2024年12月に長男を出産。妊娠期間がタイトル戦の日程と重なっていたため、保持していた3タイトルの防衛戦は日程が変更されたものの、挑戦者だった二つのタイトル戦は一部の対局が不戦敗になった。不戦敗の根拠は「産前6週、産後8週と女流タイトル戦の日程が重なった場合は対局者を変更する」規定である。
将棋も囲碁も長い歴史を持つ伝統文化である。「縦社会」の文化であることは間違いない。囲碁の世界では徳川時代に寺社奉行のもとに「碁所」が定められ、最高位「名人碁所」をめぐって囲碁の家元・四家が競うことになった。「縦社会」と「家父長制」と「政治権力」が結びついた出来事であった。
●「一力遼の一碁一会」(河北新報出版センター)を昨年12月に購入し、一読した。2025年は一力遼、芝野虎丸、井山裕太の三者覇権争いから一力が抜け出す年になったと思ったからだ。この本は一力遼が河北新報に掲載した連載コラム集。2021年9月22日<囲碁の魅力>「年齢や性差、『壁』を超えて」で次のように書いている。囲碁の魅力を「超越する四つの壁」として「年齢」「性差」「国境」「視覚」(視覚障碍者の壁)を挙げて分かりやすく書いている。率直に言ってびっくりした。一九九六年仙台市で生まれた若い棋士・一力遼は時代の流れの中で暮らし、考え、その経験を通して「四つの壁」なる社会意識を表明しているのだ。囲碁の勝負・世界に没頭しながらも、「棋士の世界」を客観化してみている構えだ。棋士を縦社会の駒としてみていた自分が申し訳ないと思った。日本の社会の成熟は個人個人の成熟を介してそれぞれが所属している社会の従来のあり方を溶かし、変革する条件をも生み出している。ここには未来への希望がある。この希望に沿った社会変革・社会革命の「これから像」を考える必要があると思う。
●自民・維新の政策協定で誕生した高市さなえ政権は「選択的夫婦別姓」に対抗して「通称名使用」を法案として通常国会に提出すると言明。これは、夫婦別姓は選択制すら認めないとする異様な政治的思想的立場である。現状は民法と戸籍法が異性間の婚姻だけを認め、世帯主の名前で家族名を一本化して事実上「家制度」を偽装的とはいえ持続させたいとする守旧的立場である。この立場を支える思想は「家父長制」の思想である。日本初の女性首相・高市さなえは自己の信念に従ってその政治を進めようとしているが、その道は古臭い「家父長制」を固持し、一人ひとりの自由な選択を妨げ、女性の育児と仕事の両立を抑圧し、多様な家族のあり方を拒否する。高市女性首相は一人の女性として、まず、囲碁・将棋界の自然体で活動し、静かに闘い続ける若い力を信頼してはどうかと思う。
(2026年1月1日)
*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より

