台湾有事と日本の存立危機を考える

本多正也(季刊『言論空間』編集委員)

① 高市首相の台湾有事答弁の危うさ

・立憲民主党岡田氏の予算委員会における台湾有事問題に対する高市首相答弁は、中国が台湾に対し軍艦をもって武力行使した場合、日本の存立危機事態に到ると認定し、集団的自衛権の行使を可能とするものであった。

・この答弁は、中国の武力行使を封じるための国連ー関係諸国の外交努力をまずもって語らず、しかも日本の存立危機事態回避策を検討もしないまま、そこに自動的に直結させて集団的自衛権ー軍事介入に短絡させる暴論である。

・このような短絡的思考は、旧台湾植民地支配を行い、アジア侵略を展開した旧日本帝国主義を自己批判し戦争放棄を誓った新憲法を投げ捨て、アジア再侵略と見なされかねない危険性をはらむ。相手が「共産」中国とて正当化出来ない事である。

② 岡田質問への責任転嫁の危険性

・このような危険な高市首相答弁を引き出した点で、岡田質問は称賛されよう。橋下徹はこの質問を「大金星」と絶賛していた。もっとも過去の同様な個人発言を首相発言としても繰り返すとは、質問者は考えていなかっただろう。そもそも先月の自民党総裁選ではこの問題は論議すらされていない。

・マスコミでは、高市答弁が具体例を出して論じ、曖昧に手の内を隠して来た従来の首相発言を超えるものであり、公と私を使い分けれないと批判される。だが、政治技術の妙と言われるそうした対応、曖昧戦略だけで良いのだろうか?

・元自民議員タレントの杉村太蔵は、中国に手の内を知られる高市答弁を引き出した岡田質問に責任を転嫁する。だが、こんな具体例も介在させず判断を首相に委ねては、国民の知る権利が保証されず、行政権の肥大化ー国家独裁が準備されていくことになる。

③ 先住権を無視した台湾への中国主権論の危うさ

・高市は答弁を撤回・修正せず「従来の政府見解の継承」と挑発するため、中国に弱みをさらし、正当性を与え、彼らの過剰反応を抑え込めれない。日中関係は政治のみならず経済的・文化的にも冷え込み、アジアへの波及力も懸念される。

・日本は「日中平和友好条約」に基づき、台湾を国家認定しないまま、中国の主権を『十分理解し、尊重』した上で軍事介入する無理を犯している。しかし中国も自ら言明した「一国ニ制度」を香港では守らず、台湾の自決権を無視している。とりわけ原住民の自己決定権を全く無視している以上、厳しく批判されるべきである。

・即ち、中国国家ー漢民族による歴代王朝の台湾諸原住民に対する植民地支配、そして蔣介石ー国民党による対台湾独裁の暴虐の歴史を配慮せず、その反省に立って台湾の民主主義を連合的に発展させて来た現民進党政権を評価しないまま、中国への併合を社会帝国主義ばりに叫ぶのである。

④ 台湾有事は日本の存立危機にあらず

・その点では、日本の軍事介入は例え日米安保条約に基づく集団的自衛権発動であってもアジア再侵略の誹りを免れないのと同様に、台湾の主権を無視した中国の主権回復も、旧宗主国のアジア再侵略の誹りを免れないと言えよう。

・そもそも日本は、かつての侵略−植民地支配を反省し、米駐留軍の占領下で戦争放棄を誓った憲法を持ち、自衛力を専守防衛に限定して来た国である。核戦争の現実性をはらむ日米安保の解釈変更−憲法違反は、アジア諸国に対して厳に慎むべき事である。

・この高市判断は、米帝に核戦争の権限を委ねたまま、双務的な条約解釈をし、逆に日本を存立危機事態へと追い込む可能性が高いものである。存立危機事態の構成要件も厳密化せず、時の内閣判断に委ねるという考えは、唯一の被爆国であリ、核戦争を阻止して存立危機事態を回避すべき日本の選択する道ではない。崩れつつある体制間矛盾に名を借りた主体性の欠如こそ自民党の本質であり、「非核三原則」放棄をテコとした、核戦争による日本の存立危機事態を招く最大の原因と言わねばならない。政権交代が急がれる所以である。

(2005年12月3日)

*アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より