ブラジルCOP30と先住民族の闘い 報告:下郷さとみさん(ジャーナリスト)
9月13日、専修大学神田校舎にて、下郷さとみさんを招き先住民族研究会が開かれ、13人が参加した。下郷さんは、リオデジャネイロのファベーラ(スラム)を主なフィールドにブラジルの民衆運動を長年取材し、支援活動を通じた先住民族との交流も深く、2023年にアマゾン南東部で開かれた先住民族の大集会には、国外から唯一の取材者として合流した。以下、下郷さんのお話の一端を紹介する。
ピープルズ・サミットへ取材へ
本年11月10日から21日まで、「アマゾンの玄関口」とされるブラジル北部の都市ベレンにて、第30回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP30)が開催される。下郷さんは、COP30にぶつける形で5日間にわたりベレンで開かれる、市民主催のピープルズ・サミットへ取材に行く予定である。このサミットは、気候危機に対し上からの解決策を待つのではなく、「真の変革はリアルな現実を生きる人びと、土地、領土、そして未来の共同的な鼓動を知る人びとから生まれる」という視角で準備され、世界中から870団体が参加登録しているとのこと。先住民族はブラジル国内だけでも少なくとも4~5千人は集まるという。国連の報告によれば、先住民族は、全世界の人口の5%を占めるに過ぎないが、先住民族の生きる土地に地球の全生物種の8割が存在している。私たち先住民族が地球の生物多様性を守っているんだと先住民活動家は言う。
人口2億人以上のブラジルで先住民族人口は全体の1%未満、170万人であるが、305民族、274言語がある。先住民族保護区と自然保護区はアマゾンに集中しているが、自然を守る最後の砦は前者だと言われる。自然保護区の指定は解除も可能なのに対し、先住民族保護区は、軍政終焉後に市民参加で制定された1988年憲法で保障された権利だとして、取り消しができないからである。先住民族保護区は全国に505カ所、土地の所有権は国家に属するが、居住と土地利用の権利が認められ、その総面積は国土の13%である。ボルソナーロ前大統領の時は新規の先住民族保護区は1カ所も認められなかった。2023年1月に発足したルーラ政権は50か所以上認定した。それでも255か所が要望されているのに未認定のまま残っている。選挙に負けたボルソナーロの支持者が三権の府に押しかけ破壊の限りを尽くし、多くの人が逮捕された。ボルソナーロ本人は米国に逃げトランプのマイアミの別荘でかくまわれていた。その後、ボルソナーロは帰国したが、昨日(9月12日)、ブラジル連邦最高裁はが、彼に対しクーデター画策・扇動の罪で禁固27年3カ月の有罪判決を出した。
アマゾンで森林破壊
アマゾンでは大規模農地開発によって年々森が失われ、60年間で最高気温が最大3度上昇した。乾季の雨量が減って川の水かさが減り、ここ10年ぐらい上流部ではボートでの移動に支障がでている。湿度は10数%、積もった落ち葉がカラカラに乾き、広大な森で毎年火災が多発するようになった。アマゾンの森林火災は消火が困難で、いったん火がつくと雨季になるまで1カ月も2カ月も燃えてしまう。森の回復には50年程度かかり、あるいは回復せずサバンナ化、砂漠化するかも知れない。先住民は主食のキャッサバをつくる焼き畑を3~4千年前から行ってきたが、乾季でも林床が十分に湿っていたため火災を起こさなかった。最近は気候の変化で焼き畑が難しくなり、消防団活動に取り組む先住民もいて、焼き畑の火入れは幅7mの防火帯をつくった上で慎重に行う。アマゾン開拓者は森にどんどん火を放って牧場をつくる。
アマゾン南東部のシングー川流域の先住民族の場合、「文明社会」との初接触が1956年頃で、それまでは新石器時代の暮らし。現在も村々は総茅葺の家、入会地のような茅場があり、茅の葺き替えは村人総出でやる。主要なタンパク源は川魚で、全て村人で分配、狩猟も行い、主食はキャッサバ。持続可能なやり方で自然に働きかけるまさに里山の生活である。そのような人びとが、スマホと衛星インターネットを駆使して、伝統文化の継承や権利運動、森を守る運動を進めている。
ルーラ政権 試金石
アマゾン北部の国境にも接するヤノマミ民族は、若い人たちがドローンを使いこなし、金の違法採掘を上空から監視して告発している。コロンビアから麻薬が入ってくるが、武装した麻薬密売組織が金の違法採掘も担い、精錬に使う水銀で川が汚染され先住民族が苦しめられている(『言論空間』2025秋号、吉田邦彦氏「ブラジル水俣病の現状と課題」参照)。昨年、ヤノマミのリーダー、ダビ・コぺナワ氏が来日して京都に滞在、下郷さんが通訳を務めた。ヤノマミには金など地面の底にあるものを掘ってはいけないという神話があるという。
先住民族の闘いは近年、ハイテク機器の活用のみならず、変化が生まれている。告発・反対して要求をぶつけるだけではなく、権力の内側から政治を動かすステージに入った。ルーラ大統領候補が先住民族との間で交わした約束にしたがって、政権成立にともない先住民族省ができ、先住民族自身が初代大臣に就任した。国立先住民保護財団の長官、保健省先住民族特別保護局の局長、その他多くの要職に、初めて先住民族が就任した。ただし国会ではボルソナーロ派が多数なので抵抗が大きい。ルーラ政権としてはCOP30において、アマゾンの森林を守る、持続可能な開発を行う、先住民族とも融和的な政策を行う、そのあたりを強調したいのだろうと考えられる。
(先住民族研究会事務局 津田仙好)

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