【2025年10月巻頭コラム】映像文化の復活を願う
(運営委員 寺嶋紘)
21世紀に入って、テレビに押され続けていた新聞社が、さらにインターネットにも押され、経営が厳しくなっていた。それから20年、いまやそのテレビ局もピンチ。新聞がネットに脅かされていた時は、ネットの情報は文字と画像が中心で映像(動画)は少なかった。家庭にもネットは広がっていったが、今ほど動画が溢れている状態ではなかった。ユーチューブは2005年頃にスタートしたばかりで、テレビの視聴率もそれほど落ちてはいなかった。
それから20年、テレビを視聴する人は減った、という。新聞社にいた私にとっては、そして長い人生の中で、テレビにそんなに思い入れはないが、それでも「リアルさ」では新聞にかなわなかったと思っていたことは確か。スポーツ、ニュース番組などは結構視聴した。そして、ユーチューブなど映像メディアの普及によって、テレビを見るという時代はもう戻ってこないだろうという雰囲気に淋しさは若干感じる。
テレビの「危機」に拍車を掛けたのは「コロナ」か? コロナ禍に「外出自粛」や「イベント自粛」が打ち出され、東京オリンピックも延期、演劇公演も自粛。テレビでもドラマ(映画も)の撮影自粛と、映像文化は粗末にされた。その後のテレビは「ほぼコマーシャルの街歩き番組」やバラエティーが氾濫、ニュースや報道番組もMCやゲストがやたらにはしゃぐなどうるさく、効果音も大きい。私はさらに敬遠気味になり、テレビ局の自滅行為とも映った。テレビ報道も信頼性が右肩下がり。
そこに今、ネット動画。映像文化の主役が交代した感。ネット動画の多様性、嗜好にあったディープな内容、だれでも制作者になれる時代、そもそもメディアのパーソナル化、そして技術革新が進んだことで主役に。ネット化にそもそも立ち遅れている私にとってはかかわりたくない媒体、半ば放棄した媒体だが、それでもテレビ(映画も) は文化を伝えてほしいと思う。
10月から公共放送のNHKが「NHK ONE」を始めた。その出だし、スマホなどの画面がフリーズしたり、入力画面に打ち込めなかったり、トラブルが続出したという。NHKは夏ごろからニュースの合間に、大々的にスタートを広報していたが、散々だったらしい。「ニュース・防災アプリ」などのネットサービスを集約するということで、200億円以上の投資をしたというのに。
NHKという公共放送、放送会社がこんなサービス(?)をしてもいいのか、放送法に違反しないのかとも思うが…。NHKはラジオ、テレビに続く「第三の開局」などと意気込んでいるらしく、どうも放送法は改正されたらしい。NHKが受信契約を結べる「必須業務」は「放送」だけだったが、「ネット配信」も対象になったという。「NHK ONE」を利用する場合、受信料1100円を支払う必要が出てくるが、ラジオ・テレビと同じく、見つからなければ無料で利用できる「仕組み」になっているらしい。映像文化が危うい。
それでも最近、映画が見直されていると聞いてうれしいし、コロナ禍でダメージを受けていた演劇なども復活しつつあると聞く。「文化は『共同体の礎』」と劇作家であり演出家の野田秀樹氏は言ってるが、そう思う。音楽も美術もそうだと思う。映像文化の復活を願う。
(アイキャッチ画像は Wikimedia Commons より)

