季刊『言論空間』2025夏号

社会を蝕むフジの企業風土と「昭和の終焉」

長嶋茂雄さんが他界し、同時代を生き抜いた高齢者層には「昭和が終わったのか」との感傷の気分がある。私もその一人である。さて、フジテレビ問題は第三者委員会の報告が多くの人々の共感を呼んだ。特集1で谷岡理香論考は「性別・年齢・容姿に着目して呼ばれる会合のような人権意識の低下した業務がフジ社内で罷り通り、その背景にハラシメントに寛容なフジ全体の企業体質」があると指摘。この企業体質・企業風土の背景には被害の渦中にある女性の側の視点が欠如している。この企業体質・企業風土はフジテレビだけでなく、企業社会、メディア社会、芸能社会、スポーツ社会、さらには政界、検察・警察、官界にまで及ぶ。成長社会を担った企業社会、支え続けた「企業国家」は戦後日本の国のかたちの構造であった。成長社会が光とすれば、この企業体質・風土は影といえる。昭和の終焉はこの国のかたちの終焉と重なる。「今」、私たちは出口が見えないまま、何かしら戦後80年の決算、つまり近代日本の構造的転換期を経過しているのかもしれない。特集2は前号に続くトランプ批判の第二弾。いろいろな分野から分析と御意見を伺った。気候変動とコロナパンデミックが文明的転換の始まりだとすれば、激変する時代は「トランプ激震による文明転換の展望」(小林正弥論考)を私たちに迫っている時代の始まりでもある。この夏号の論考ではそれぞれの分野や立場から歴史的な振り返りや総括の論考が確かに多い。小さな雑誌ではあるが、縮小する言論空間での問題提起になっていると思う。

(編集長 山田勝)

【特集1 フジテレビ問題にみる倫理性の欠如と企業風土】
「性別・年齢・容姿」は女性差別の記号  谷岡理香(メディア総合研究所所長)
フジの整理縮小を「メディア再編」の一歩に  南 彰(琉球新報記者・編集委員)
本質を見誤ることなかれ  石井 彰(放送作家)
ジャーナリズム再生への道はどこにあるのか  山田健太(専修大学教授)

【特集2 トランプ政治とどう向き合うか――激変する世界】
19世紀が復活する  広岡裕児(ジャーナリスト/フランス在住)
トランプ関税で米中覇権はどうなる  金子文夫(横浜市立大学名誉教授)
メルツ新政権誕生――2025年連邦議会選挙とドイツ政局  小野 一(工学院大学教授)
米中交渉の焦点は台湾、パナマ、米国債へ  大西 広(慶應義塾大学名誉教授) 
西洋文明の始まりと終わり(私の文明論)《下》  錦織 淳(弁護士、元衆議院議員)
アメリカの帝国化と公共哲学の「天命」  小林正弥(千葉大学教授)

【論考】
フランス文学と映画に描かれた野心と野望  牧子嘉丸(文芸誌「トルソー」同人)
アイヌ施策推進法は民族の自立につながるのか  萱野志朗(アイヌ民族党代表)
政府は帰還した日本兵のPTSDと家族の実態調査をやり直せ  黒井秋夫(PTSDの日本兵家族会・寄り添う市民の会代表)

〔連載〕かっこいいおんなになるために。
社会のサステナビリティ 松元 ちえ(ジャーナリスト)
〔連載〕レキオからの便り
北緯27度線で轟いた 「沖縄を返せ」の歌声  国吉真太郎(作家)
〔連載〕定説を疑え! 経済の行方を読み解く
『日本経済の死角』で考える日本経済の現在地  蜂谷 隆(経済ジャーナリスト)
〔連載〕ドイツに暮らす20
「DDRとは何だったのか――ドイツ分断の傷跡」  フックス真理子(ドイツ在住)
〔連載〕現代の非理論
「400人死亡」記事がボツに  松本仁一(ジャーナリスト・元朝日新聞編集委員)
〔連載〕沖縄の助産婦、海をあるく
お産とドゥーラとクリスタルボウル  トルネイドまーりー(助産師)
〔連載〕ちょっと深堀りヨーロッパ①
生殖補助医療、欧州から学んでみたら?   栗田路子(ブリュッセル在住/ジャーナリスト)
〔連載〕感じる映画たち
終わらない戦後――「支配・差別の構図」は変えられるのか  加田 斎(フリー編集者)
〔連載〕東洋医学こぼれ話
五銭十銭、そして五千銭  大木一史(薬剤師・鍼灸師)

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